248.お兄ちゃん、義弟に告白される
「僕は姉様が好きだ」
「えっ……」
真っすぐと射抜くように僕を見つめ、絞り出すように、でも、はっきりと言葉を紡いだフィン。
その言葉を受けて、僕もにっこりと微笑む。
「ええ、私も、あなたの事が大好きですわ」
「違う。違うんだ。姉様」
だが、そんな僕の肩を掴むと、彼は少しだけ語気を荒げた。
「僕は姉様が好きだ! いや、セレーネ・ファンネルが好きだ!!」
必死な表情で自分の気持ちを伝えようとするフィン。
その顔を見て、鈍感な僕にもようやくわかった。
彼は、僕の義弟は、家族として、姉弟としての親愛を表しているわけじゃない。
この"好き"は、一人の異性として、僕の事が"好き"だと、そういうこと。
気づくと同時に、身体の芯の部分から、確かな熱が湧き上がってくる。
フィンは僕の事が"好き"。
フィンは僕の事が、女の子として"好き"。
その事実が、僕の思考回路を着実にショートさせてくる。
「ほ、本気で言っていますのよ……ね」
「もちろんさ。僕は、ずっと……本当にずっと姉様の事が好きだった」
悲痛にも見える表情のまま、彼は独白する。
「初めて意識したのは、それこそ出会った時だった。公爵家での生活に不安ばかりだった僕に、優しく微笑んでくれたその笑顔を見た時に、僕は姉様の事をもう好きになっていたんだと思う」
それから少しだけ落ち着いた様子の彼は、大切な思い出を語るように、ゆっくりと昔話をした。
父様に叱責された時に、助け舟を出したときの事や、女装趣味を否定せずに、一緒になってそれを楽しんだ事。
夏に一緒に避暑に行った時の事や、初めて街に遊びに行った時の事。
そんな2年間の屋敷での共同生活に加えて、学園に入学してからの事。
長い長い思い出話の中で、彼は、如何に自分が僕に救われていたのか、そして、僕に好意を持っていたのかを一つずつ話してくれた。
一つ一つのエピソードを聞くにつけ、僕の方はどんどん恥ずかしくなってくる。
そう言えば、そんな事言ったな、とか、そんな行動取ったな、とか。
今考えると恥ずかしげもなくよくそんなことをしていたな、と思えるようなこともあり、最後の方には、もうフィンの顔をまともに見れる気がしていなかった。
同時に、この世界に来て、誰よりも一緒にいたのは、この義弟なのだな、ということを改めて感じさせられる。
僕にとっての世界は、フィンと一緒に過ごした世界だったのだ。
「ずっと姉様とこのままの関係でいられたら、そう思っていた。でもね。学園に入ってから、僕なんかよりもずっと素敵な人達に言い寄られる姉様を見ていたら、どんどんモヤモヤする気持ちが強くなっていったんだ」
嫉妬。
自分の醜い部分すらも、彼は僕に話してくれている。
それは、とても強い心のように、僕には感じられた。
「我慢できなかった。ううん、本当は、この関係が崩れることがただただ怖かったんだ。姉様に好きだと伝えて、今の姉弟として関係すらも壊れてしまうことが、怖くて仕方なかった」
「フィン……」
「姉様……いえ、セレーネ様」
他人行儀にも聞こえる不思議な響き。
だが、その言葉に、何よりも強い情感が籠っているのが僕にもわかった。
「他の王子様達に比べて、自分が優れているなんてとても言えない。でも、貴女を想う気持ち。この一点だけは、他の誰にも負けない自信がある。だから……」
言葉に負けず、誰よりも誠実な視線で、彼は言った。
「僕との未来も、貴女の選択肢に入れてもらえませんか」
夕暮れの優しい光に照らされながら、キラキラと輝くフィンの金髪。
その流れるような煌きと、線の細い顔立ちは、相も変わらずまるで女の子のようだ。
でも、僕だけが映るその碧い瞳は、まごうことなき男の子のものだった。
「フィン……」
ただ、名を呼ぶことしかできない。
これまで告白された時以上に、いろんな感情がないまぜになって、思考が纏まらない。
立派な男性になったフィンに対する親心的なものももちろんある。
それでも、ひたすらに純粋な彼の心にあてられてか、僕の胸はこれ以上ないくらいに高鳴っていた。
フィン、フィン、フィン……。
今すぐにでも、抱きしめてしまいたい。
弟としての好きと、男性としての好きが掛け算になって、今にもどうにかなってしまいそうだ。
でも、同時に脳裏にちらつくのは、レオンハルトやルカード様、そして、アミールの顔だった。
抱きしめてしまえば、それはフィンを選んだということになってしまう。
それに、ここで飛びついてしまえば、結局、それは姉として弟が好きなだけだと、フィンは受け取ってしまうだろう。
彼の想いに真剣に答えようと思うならば、そんな安直な事をするわけにはいかない。
「貴方の気持ち、本当に嬉しく思います」
抱きしめたい気持ちをグッとこらえた僕は、努めて普段通りに微笑む。
「貴方との未来、想像してみたら、きっと幸せだろうなって、そう思える自分がいました」
フィンは口を開くことなく、ただただ僕の言葉を一言一句逃さぬようにと真っすぐに見つめている。
「でも、やっぱりすぐには、はい、とお返事することができそうにありません」
「うん、それでいいよ。姉様」
さっきまでの男っぽい視線が嘘のように、いつもの柔和な笑顔を浮かべるフィン。
その表情は、どこか晴れ晴れとしているようにも感じられた。
「気持ちを伝えられた。今は、それだけで満足だから。姉様を困らせてごめんだけど。ただ、姉様のパートナー候補として、立候補できただけ良かった」
穏やかにそう語るフィン。
その言葉と笑顔が、その後何度も、僕の心の中でリフレインするのだった。
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