247.お兄ちゃん、白の国を案内する
さて、その後もアルビオン観光は続いた。
白の教会以外にも、この国の中には見栄えの良いスポットは色々とある。
僕らが"舞い"を披露した大鐘楼のある広場や聖花の並ぶ花畑。
澄んだ水を湛えるカナン川の威容等を眺めているうちに、いつしか陽も少しずつ落ちてきていた。
「そろそろ学園に戻りましょうか」
僕が提案すると、ミアもシルヴィも頷く。
「お姉様、本当に今日はありがとうございました!! 色々と白の国の事を知ることができましたわ!!」
「わ、私も、楽しかった……です!」
口々にお礼の言葉を述べるミアとシルヴィ。
そんな二人と並んで歩きつつ、僕も笑顔を浮かべた。
晴れ渡った空のその先には、わずかに朱色がにじんでいる。
馬車に乗れば、陽が落ちる前には、十分寮に戻れるだろう。
「……お姉様」
「ん、どうかしましたか。ミア」
突然歩を止めたミア。
一瞬、何か深刻な顔をしたように見えたが、すぐに彼女は僕へと笑顔を向けた。
「少しだけお時間をいただけませんか? シルヴィさんと2人で行きたい場所がありまして」
「そうなのですか? うーん、アニエス」
横目で見ると、アニエスはコクリと頷く。
「それほど遠くでなければ構いませんわ」
「ありがとうございます!! それでは!!」
「え、え、ミアさん……!?」
ミアは、なぜかフィンに向かってウインクをすると、戸惑った様子のシルヴィの手を引いて駆け出した。
そんな2人の後ろをアニエスも監督するようについていく。
3人の姿は、人込みに紛れて、すぐに見えなくなった。
「ふふっ、仲睦ましいですわね」
迷いやすい街ではあるが、慣れているアニエスが一緒ならば、大丈夫だろう。
「さて、私達はどうしましょうか」
「姉様」
ふと視線を向けると、それまでどこか伏し目がちだったフィンが、真っすぐに僕の方を見ていた。
その碧の国の海のように澄んだ瞳を見て、僕はなぜだか一瞬胸がドキリとした。
「僕も行きたい場所があるんだ」
「うわぁ……」
そこはミア達と分かれた場所からほんの少し歩いてところにある小さな公園だった。
市民の憩いの場なのだろう。
マジックアワーの柔らかな光の中、子ども達が駆けまわる公園には、どこかゆっくりとした時間が流れているように感じられた。
「こんな場所がありましたのね」
「うん、以前たまたま見つけたんだ」
そう言って、花壇の近くにあったベンチへとフィンは僕をエスコートする。
そして、僕らはゆっくりとそこに腰を下ろした。
「ふふっ、なんだか、フィンが屋敷に来たばかりの頃を思い出しますわね」
ボール遊びに興じる幼い姉弟の様子を見ながら、僕の顔には自然と笑みが浮かんでいた。
「そう言えば、あの頃は、よくあんな風に"きゃっちぼーる"っていう遊びをしたね」
「ええ」
週に1度の休息日。
フィンの女装に付き合いつつも、ああやって姉弟らしい遊びをするのも僕は大好きだった。
何せ、前世から念願の弟だったからなぁ。
今も昔も、フィンは僕にとって、理想の弟だ。
「フィンが私の"弟"で、本当に良かったですわ」
「…………僕は」
と、僕の言葉を聞いたフィンが、何度か見せた事のある真剣な表情でこちらを見た。
「僕も姉様の義弟になれて、本当に幸せだよ。でも……」
前置きすると、彼は言った。
「今はとても、それが苦しんだ」
「フィン……?」
泣き出しそうな顔。
なぜ、彼がそんな悲し気な顔をするのか、皆目見当がつかない自分。
以前、聖女になることを心配してくれた時と同じだ。
やっぱり僕は、彼の気持ちをきちんと推し量ることができない。
「ごめんなさい、フィン。私には、あなたがなぜ苦しんでいるのか、わからないのです」
「謝らないで、姉様。これは僕の問題なんだ……」
グッと拳を握りながら、フィンは続ける。
「屋敷に来たあの頃から、僕は変わってない。ずっと臆病なままだ。自分の本当の気持ちをちゃんと伝えることもできず、うじうじしてばかり。今だってそう……」
「そんなことありませんわ!」
僕は努めて穏やかに首を横に振る。
「あなたは昔よりもずっと強くなりました。優しいところは変わらないまま。でも、公爵家の跡取りとしても、一人の男性としても、あなたはもう立派な紳士だと私は思っています」
そうだ。
いつだって、彼は僕の事を心配してくれた。
そして、それは、口だけの事ではなく、自分の力を惜しみなく僕のために振るってくれた。
学園でも模範的な貴族男子だと持て囃され、同性からも、異性からも尊敬される今やそれほどの存在に彼はなっている。
恥じるところなど、何一つない。
「姉様はずっと変わらないね」
「あはは、私ももう少し成長できると良いのですが」
自嘲するように笑う僕。
その様子を見た彼は、どこか穏やかに瞳を閉じた。
「姉様はいつも僕の背中を押してくれる。だから、僕も覚悟を決めるよ」
ゆっくりと目を開いた彼は、一度息を吸い込むと、はっきりとこう言った。
「僕は姉様が好きだ」
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