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245.お兄ちゃん、妹に心配される

 横やりは案の定やってきた。


「セレーネお姉様!!」


 小さくなっていくアミールの背中を見つめていた僕。

 そんな僕の元へと、息を切らせて走ってきたのは、愛すべき義妹だった。


「ミア……」

「お姉様!! 今、あの褐色クソ野郎になにかされませんでしたか!?」


 口が悪いぞ、ミアさんや。

 さすがに貴族の令嬢が、その発言はないぞ。

 まるで、優愛のようだ。


「い、いえ、その……」


 とっさに言い訳もできず、口ごもっていると、ミアは悲壮な顔で僕の手を取った。


「乱暴されたのですか!?」

「ち、違いますから!!」


 乱暴、という言葉に、思わず変な想像を頭の中で展開してしまう僕。

 いやいやいやいや、何もされてない!!

 キスだって、未遂で終わったわけで……!!


「本当ですか。お姉様? 顔が赤いですが……?」

「ほ、本当です!! 誓って、何もされておりません!!」

「それなら宜しいのですが……」


 と、一応は納得した風に見せつつも、どこか不審の目を向けて来るミア。


「セレーネお姉様」

「な、何かしら?」

「私、絶対、あの方だけは認めませんからね」


 腕を組みつつ、ぷんすかと頬を膨らませるミア。

 まるでリンクしているかのように、それまでのほほんとミアの髪をハムハムしていたもぐぴーも同じように頬を膨らませた。

 見ようによっては可愛いが、アミールに対する不信感が凄いなぁ。

 まあ、初めて出会った時も、似たような状況だったわけで……。

 ミアもアミールも、お互いの危機感知能力が随分と成長しているようだ。

 それにしても、まさか自分の方が妹に心配される立場になってしまうとは。

 少し前まで、ミアの彼氏は自分がしっかり選別してやろうなんて考えていたのが、あまりにも滑稽に思える。


「あんな方にお姉様を渡すくらいなら、お兄様に……」

「ミア、何か言いまして?」

「いえ、何でもありませんわ。お姉様」


 どこか切り替えるようにミアはにっこりと微笑む。


「セレーネお姉様。実は今からシルヴィさんと街に参ろうかと思っていますの。それで、できましたら、お姉様もご一緒に来て下さらないかと」


 学校には慣れてきた様子のミアとシルヴィ。

 なるほど、そろそろ街デビューしてみたい頃合というわけか。

 ミアもシルヴィも、これまで周りの環境が環境だっただけに、街に対しては並々ならぬ憧れのようなものがあるようだ。


「いいですわよ。先輩として、案内できる場所もあるでしょうし」


 それに……少し気分を変えたいところでもあるし。


「うわぁ!! お姉様、ありがとうございます!! さっそくシルヴィさんを連れて参りますわ!!」

「あまり慌てないようにね」


 そそくさと走り去って行く妹の姿を僕は苦笑しながら見送る。

 本当に元気になったなぁ。

 前は走るなんてとんでもなかったが、今ではあんなに力強く走り回っている。

 嬉しさを感じると同時に、その背中が一瞬先ほどのアミールのそれと重なった。


『これ以上が欲しけりゃ、今度はお前の方から来な。そしたら、次はもっと夢心地にさせてやる』


 最後に言い残した言葉が、頭の中で何度もリフレインする。

 本当に、僕の方から行ったら、いったいどんなことをされてしまうのだろうか。

 というか、次、彼に顔を合わせた時、どんな表情してればいいの……。

 にわかに湧き上がってくるなんとも言えない感情を努めて意識しないよう、僕は頬をパチンと叩いたのだった。




 ミアが戻ってきたのはそれから15分ほどが経った頃だった。

 連れて来るのはシルヴィだけと思っていたが、その横には、もう一人見知った顔がある。


「あっ、フィン」

「姉様、ごきげんよう」


 低身長ながら、スラリと線の細いその姿は、まごうことなき我が義弟だった。


「あなたも一緒だったのですね」

「一緒だったというか。突然呼び出されたというか……」


 なんだか微妙な表情を浮かべるフィンの横で、ミアは両の手を腰に当てて、えっへんと胸を張っていた。


「やはり兄様も一緒が良いと思いまして」

「構わないかな。姉様?」

「ええ、それはもちろん」


 答えつつ横を見る。

 すると、そこには、いつの間にか姿を現していたアニエスと対峙するシルヴィの姿があった。


「アニエス姉さん」

「シルヴィ、学園での生活は順調ですか?」

「う、うん。みんな良くしてくれてるし。勉強はちょっと難しいけど……」

「そうですか。ミア様にご迷惑をかけてはいませんね」

「それは……えっと、たぶん……」


 ちらりとミアへと視線を向けるシルヴィ。

 そんな彼女へと、ミアは躊躇なく抱き着いた。


「大丈夫ですわ。アニエス。シルヴィとはこんなに仲良しですもの」

「それはようございました。ですが、もし、妹が粗相をした場合は、私がきっちり教育致しますので、すぐにお知らせくださいませ」

「ね、姉さん……」


 縦社会で生きてきたアニエスの肝の据わった眼光に、シルヴィがビクビクしている。

 もうどちらも騎士爵ではないわけでが、なかなか実家でのパワーバランスは拭えないようだ。


「さて、では、参ると致しましょう!!」


 意気揚々としたミアの掛け声で、僕ら家族とシルヴィ、そして、アニエスは街へと繰り出したのだった。

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