243.お兄ちゃん、モブに巻き込まれる
結果から言うと、3度目のチェックは何の問題もなく終わった。
ルーナの鉢植えにもしっかりと芽が出た事で、コリック先生は意外なことに文句の一つも言うことなく、試験の続行を認めてくれたのだ。
僕の苗の異常な成長速度にも、特に言及することもなく、拍子抜けするほどあっさりと僕らは解放されていた。
「とりあえず、良かったと言えば良かったけれども……」
一応、試験の続行という目的は果たせたというわけで、一件落着ではあるのだが、如何せんルーナとの差は未だ歴然としている。
下手を打たない限りは、このまま聖女になるのは僕という可能性が高いのは否めない。
もっとも、ルーナもまだまだ諦めた様子はなく、ベッタリ寄り添うことはなくなったものの、丁寧に苗のケアをしてあげているようだ。
ヒロイン補正については、僕の勘違いだった可能性もあるが、それでも、ルーナなら最後の最後に何か逆転してくるのではないか、というような妙な期待感もある。
今までの試験がそうだったから、変に刷り込みがあるのかもしれないが、最後まで油断できないのは間違いない。
まあ、僕は、どちらに転んだにしろ……って、いかんいかん!!
何を気を緩めているんだ、僕は。
僕自身がどうしたいのか、それをしっかり考えなくちゃ、勇気を出して告白してくれた2人に失礼だ。
それに、ルーナは僕のライバル。試験で手を抜くわけにもいかない。
ままならない状況に変わりはないが、僕自身が選び抜いて、答えを出さなければ……。
だって、それが聖女様やビアンキさんの願いでもあるんだから。
「セレーネ様。ここで、失礼させてもらいます!」
「ええ、来週のチェックも楽しみにしていますわ」
湖畔の道半ばで、少し早めにルーナと分かれた僕。
鉢植えを両手で抱えつつ、ゆっくりと歩いていく。
放課後のこの辺りは、相も変わらずカップルが多い。
その中には、今まで見た印象の無いペアの姿もあった。
おそらく新入生だろう。
5月に入り、少しずつ学校に馴染んできた彼らの中には、早くも彼氏彼女の関係になった者もいるようだ。
まだ、あまり男女一緒にやる行事なんかも行っていない中だというのに、ほんとみんな手が早いわ。
こりゃ、ミアもそのうち「セレーネお姉様、彼氏ができましたの!! 紹介させて下さいませ!!」なんて言って、男連れて来かねないな。
病気だった当時と違い、今のミアは健康的なロリ系美少女だもんな。
あんなん好きな男子は山ほどいるだろう。
ろくでもない奴連れてきたら、姉として、断固交際を認めるわけにはいかないぞ。
と、そんないらぬ心配をしながら歩いている時だった。
夕刻を告げる鐘の音が学園内に響く。
それと同時に、僕は違和感を感じた。
というのも、僕意外の周りにいた人達が、急に動きを止めたのだ。
立ち止まったとか、そういうレベルじゃない。
ピタリと静止して、微動だにしない。
前から歩いてきていた男子生徒の集団も。
ベンチに腰かけていたカップルも。
果ては、剪定をしていた庭師らしき男性も。
なんだ。もしかして、僕はス〇ンド能力に目覚めてしまったというのか……?
時が止まった世界への入門を果たしたと……。
一瞬、そんなアホな考えが浮かんだ僕だったが、すぐに思いなおす。
だって、人は静止していても、湖面は揺れているし、風もそよいでいる。
あくまで、動いていないのは人のみ。
ということは、この人達が故意に静止しているということに他ならない。
でも、なんだって、急に?
疑問に思ったのとほぼ同時に、どこからか音楽が流れだす。
すると、一番近くにいた男子生徒達が、急に動き出した。
ただ、動いただけじゃない。
4人でぴったりとフォーメーションを組んで、ダンスを踊り始めたのだ。
いきなりの事に、ポカーンとその妙にレベルの高いダンスを眺めてしまう僕。
そして、次々と周りにいたカップルや庭師もそのダンスへと参加していく。
ノリノリに踊り狂う湖畔の人々。
音楽を奏でていた楽器隊の面々も、林の中から姿を現した。
そこに来て、ようやく僕は思い至る。
あっ、この人達、アミール劇団の……。
そこまで気づいたところで、奴は現れた。
もはや何十人もの大所帯となったダンスと楽器隊のメンバー達。
その中心を貫くようにして、笛を奏でながらやってきた褐色肌の美男子。
言うまでもないだろう。
砂漠の王子、アミール・サフラン。
普段の制服姿とは違い、王子としての正装に身を包んだ彼は、いつものチャラさが嘘のように、真剣な表情で一歩一歩近づいてくる。
花道のようになった劇団員をバックに、彼は僕のすぐ前までやって来ると、笛を納め、そして、どこからか花束を取り出した。
「碧の国の公爵令嬢。セレーネ・ファンネル様」
「は、はいっ……!!」
「この俺、サフランの第3皇子アミールの気持ち、受け取ってもらいたい」
そう言って、アミールは、僕へと花束を手渡してきたのだった。
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