242.お兄ちゃん、癒す?
「やっと、普通に登校してきましたわね! 平民!」
僕とルイーザとルーナ。
久しぶりの3人での登校に、一番テンションが上がっているのは、間違いなくルイーザだった。
「うん、ルイーザちゃん。おはよう!!」
「まったく、長い事授業を休んで、また成績が下がってしまいますわよ!!」
「あー、それは困るかも……」
「ですから、私が平民の分のノートも取っておいて差し上げましたわ!!」
『えっ!?』
ニコニコと両手に持ったノートを手渡してくるルイーザ。
何冊もあるそれらを受け取りつつも、ルーナはキョトンとしている。
それはそうだろう。
確かにルイーザは典型的なツンデレ気質であり、ルーナに対して表面的に敵対しているだけで、本当はズッ友だと思っているのは明白だ。
だが、こんな風に直接的に、ルーナに何かしてあげようだとか、そんなことは初めてだった。
しかも、これだけの量。かなりの労力であるのは間違いない。
「え、えっと……。ありがとう、ルイーザちゃん」
「ふふっ、あなたが平民とはいえ、授業に遅れてしまうのは可愛そうですからね!!」
おーほっほっ、とベタな高笑いをしつつも、やけにテンションが高いルイーザ。
何か良い事でもあったんだろうか。
「ルイーザちゃん」
「何ですの、平民?」
「何か悪いものでも食べた?」
「失敬な!!」
ルイーザはクルリと一回転すると、まるで舞台役者のようにピタリと静止した。
「私の溢れ出る慈愛の心がそうさせるのですわ」
「自愛じゃなくて?」
「人をナルシストみたくおっしゃらないで!!」
コントのようなやり取りを眺めつつも、やけに元気なルイーザの態度に僕もちょっと怖くなってくる。
変なクスリとかやってないよな……。
「あ、あの、ルイーザさん。その、本当に普段とお変わりなくて……?」
「セレーネ様まで……。まあ、確かにいつもとは少し違っているかもしれませんわ」
ルイーザはドリルヘアーをたなびかせつつ、またクルクルと回る。
「最近、とっても身体の調子が良いんですの!! 朝の畑仕事だって楽々~ですわ!!」
「そ、そうなんですのね……」
身体どころか、なんだか心の方までえらく軽そうだけれど。
「はい!! それもこれもセレーネ様のおかげですわ!!」
いや、何故!?
「なんだか最近、セレーネ様といると、とても元気になれるというか」
「あー、それ私もわかる!!」
と、ルイーザの発言にルーナも乗っかる。
え、何?
僕、何かおかしな脳内麻薬の分泌でも促進させてるの……?
「セレーネ様といると、まさに絶好調!! お通じもバッチリですわ!!」
「ほんとほんと!!」
「いやいやいやいや」
本当何なの?
僕って、酸化マグネシウムなの?
「実際、クラスでも噂になっていましてよ」
「えっ?」
「セレーネ様の近くにいると、なんだかとっても身体が楽になる、って」
そんな噂、初めて聞いたぞ。
いや、でも……。
最近はそれどころではなかったので、あまり気にしてはいなかったのだが、そう言えば、なんだか妙に周りの女の子達が元気だった気はする。
距離感もなんだか近い子が増えていたようにも思う。
「うーん、そう言っていただけるのは嬉しい?ですが、私特に何かしているわけでは……」
「無意識に人々の身体と心を癒す!! やはり、セレーネ様こそ聖女様ですわね!!」
「あー、もう、ルイーザちゃん!! 私だって!!」
「まあ、平民もせいぜいがんばりなさいな!!」
再びいがみ合いを始めたルイーザとルーナ。
きっと春だから、みんなきっと調子が良いだけだよな。
それを僕のおかげだなんて言われても、もちろんピンと来るわけない。
ルイーザやルーナのいつもの変な持ち上げ、といったところだろう。
「それよりも、ルーナちゃん。今日の放課後は」
「あっ、そうでした!!」
今日はいよいよ3回目のチェックの日。
すでにルーナの苗の芽もしっかりと出ている以上、コリック先生から提示された条件は満たしていると言えるが、また屁理屈をこねてこないとも限らない。
それに……。
懸念はもう一つ。
僕の苗が妙に育ちすぎているということだ。
あれから1日。
水をあげ、簡単な世話だけをしているに過ぎない僕の苗は、さらに大きく成長している。
まだひと月も経っていないというのに、その成長速度はかなり速いと言っても良かった。
いくら芽が出たとはいえ、ルーナとの差は明確。
そのことで、何か言われる可能性はある。
どんな事を言われても、言い返せるようにしておかないと。
そんな風に、軽く心の中で気合を入れつつ、僕は仲良くケンカを続ける二人と共に、朝に道を歩いていったのだった。
「面白かった」や「続きが気になる」等、少しでも感じて下さった方は、広告下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけますと、とても励みになります。




