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238.お兄ちゃん、神官様と再会する

「ですから、困ります。セレーネ様……!!」


 白の教会の入り口、二人並んだ僧兵の前で、僕は腰に手を当てて仁王立ちをしていた。


「今回は引き下がりません。ルカード様に一度お目通りを。さもなければ……」


 僕は手に木剣を握っていた。

 実際に僧兵を殴ろうとかそんなことを思っているわけじゃない。

 言う事を聞いてくれないと、何をするかわからない。そう思わせるためのポーズだ。

 案の定、慌てた僧兵は顔を見合わせている。


「ど、どうする?」

「でも、ルカード様に止められているし……」

「さあ、どうするのですか?」


 上段に構えたポーズのまま、じりじりとにじり寄ると、僧兵二人は慌ててちょっと待ったとポーズをかけた。


「わ、わかりました!! 一応伺ってみるだけはしますので!!」

「だから、剣を下ろして下さい。セレーネ様!!」

「ふぅ、わかっていただけたようで幸甚ですわ」


 おほほ、とわざとらしくお嬢様口調で笑う。

 木剣を降ろした僕を見て、ようやく二人もホッとしたようだった。


「少しこちらでお待ちください。ルカード様の元に確認を」

「わかりましたわ。あ、でも、これだけ……」


 意図して切羽詰まった表情を作りつつ、僕は告げた。


「"ルーナちゃんの一大事"だと、そうお伝え下さいませ」




 聖燭祭以来、およそ2か月ぶりに入った白の教会。

 荘厳な雰囲気の白亜の建物の中には、多くの聖職者が忙しなく歩き回っている。

 白の教会は、このアルビオンにおいては、いわゆる王族や元老院的な立場を担う。

 つまりは、国唯一の行政機関であり、一般的な教会のイメージとは少し違った公の仕事も請け負っている。

 そんな場所において、ルカード様は、仕事のために一つの部屋を与えられていた。

 扉を開ける。よく整理された資料置き場のような小部屋。

 少しだけインクの匂いの香るその部屋の中央に立っていたのは、ルカード様だった。


「ルカード様!!」


 久しぶりに見たルカード様の姿。

 だが、彼は、どこか困ったような顔でこちらを見ている。


「セレーネ様……」

「突然の訪問失礼したします。……色々お聞きしたいことはありますが、大至急ご相談したいことがあります」


 再会したばかりでせせこましいことだが、あまり猶予がない。

 あの頭の固い試験官が、いつ正式に試験の中止を発表するかなんてわからないのだから。

 早口に、半ばまくしたてるように状況を説明すると、ルカード様は申し訳なさそうな顔で目を伏せた。


「まさか、そのようなことになっていたとは……」

「お願いです。ルカード様。コリック先生の暴走を止めて下さいませ!!」


 前任の試験官であるルカード様。

 彼の介入があれば、あるいはコリック先生も考え直すかもしれない。


「…………わかりました。そのような理由で試験を中断されるのは、私も本意ではありません。試験官から身を退いた立場ではありますが、今一度コリック様と話をしてみたいと思います」

「ルカード様……!!」


 さすがに物わかりが良い。


「アニエスが馬車をつけています。善は急げ、ですわ!!」

「セ、セレーネ様!! あまり袖を引っ張らな──」


 急ぎすぎたのが災いした。

 ルカード様を急かし過ぎたせいで、体勢を崩した僕。

 それに引っ張られるようにして、ルカード様も床に蹴躓く。

 そのまま倒れ込むようになった僕は、今、ルカード様に押し倒されるような体勢になっていた。

 彼の髪の一房が僕の鼻腔をくすぐる。

 それほどの至近距離。

 眼鏡越しの瞳の精緻なまつ毛の造形までもが、はっきりと見て取れる。

 ふと、記憶が蘇った、あの時のことを思い出す。

 目を覚ますと、ルカード様の端正な顔がほんの間近にあった。

 そして、僕が目を覚ましたのを確認すると、その柔和そうな顔をホッと綻ばせるのだ。

 今回もそう、きっと大丈夫かと、彼は優しく問い掛けて……。


「ルカード様……?」


 反応が無かった。

 いや、違う。

 彼は僕の事をマジマジと見つめていた。

 そして、その頬は、僕からもはっきりとわかるほどに、紅く染まっている。

 ゴクリと唾を飲み込むように喉が動いた。

 それはまるで、僕という女性を意識しているかのような反応で……。


「す、すみません……!!」


 慌てて僕の上から飛び退くルカード様。

 その反応が、あの初めて出会った時の落ち着いた雰囲気とはあまりにも違って、僕は面食らっていた。


「い、いえ、こちらこそ、失礼しました……」


 パンパンとスカートの埃を払いながら、立ち上がる。

 だが、なぜだかルカード様は、そんな僕から、まるで見てはいけないものを見るように目を逸らしていた。

 何とも言えない違和感。

 だけど、今はそれさえも追求している暇はない。


「ルカード様、とにかくお急ぎ下さいませ」

「あ、はい、わかりました……!!」


 未だ動揺した様子ながらも、僕につき従うように白の教会を駆けるルカード様。

 そんな彼の変化を今だけは考えないようにしつつ、僕はコリック先生の元へと急いだのだった。

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