234.お兄ちゃん、ヒロインの本懐を知る
「騎士様との出会いが、私が最初に聖女になろうと思ったきっかけだったんです」
「そ、そんなことがあったのですね……」
もしかしたら、重い過去とかそんな回想が入るかもしれないと思いきや、なんというか……。
ルーナが聖女になろうとやる気を出したのには、僕とレオンハルトの事が関わっていたのか。
思い返してみれば、聖女試験が始まった頃のルーナは、なぜか気持ちを伺うように、僕の顔をマジマジと見ていることが多かったような気がする。
「でも、レオンハルト様とは、その……」
「あはは。お二人が本当にそこまでお互いを想い合っているのかは、正直私にはわかりません。でも、これはあくまできっかけなんです」
そう言うと、ルーナはまたなんだか思い出し笑いをするように微笑んだ。
「セレーネ様と出会ってから、いろんなことがありました。聖女試験だけでなく、一緒にお米を育てたり、公爵家にお邪魔したり、聖燭祭で聖女様の代わりを務めたり」
思い出を懐かしむように淀みない口調で、彼女は語る。
「セレーネ様と一緒にいろんなことをしました。出会った頃から素敵な人だな、と思っていましたが、長く一緒にいると、益々その気持ちは強くなっていきました。誰よりも強くて、優しくて、綺麗で、声も素敵で、歌も上手くて、頭も良くて、それからそれから……上げればキリがないほどに、私はセレーネ様の素敵なところをいっぱい見てきました」
だからこそ、とルーナは強調する。
「いつしか私は思ったんです。そんな素敵なセレーネ様をみんなから取り上げてしまって良いのかな、って」
「あっ……」
「だって、聖女様になるとみんなに会えなくなってしまうから。それはきっとみんな望んでいないと、そう思ったから」
ずっと、ルーナは自分の将来の事をあまり考えていないのだと思っていた。
聖女という存在の重さをそれほど感じていないのだと。
あるいは、ゲームの強制力により、聖女になるべきだという刷り込みがあるのかもしれないと考えたこともあった。
でも、違った。
彼女は、僕なんかよりもずっと早く、そして、ずっと重く、聖女という存在の定めに気づいていた。
そして、自分がその重責を負うことに何の躊躇もせず、邁進していたのだ。
僕と、僕の周囲にいるみんなのために。
「私が聖女になれば、セレーネ様はずっとみんなといられます。だから、頑張ってみようと思ったんです」
「ルーナ……ちゃん……」
上手く声が出なかった。
それほどに、僕は動揺していた。
ルーナのあまりにも健気な想い。
それは、自分の破滅エンドの事と天秤にかけて、迷ってばかりいた僕にとって、あまりにも清々しく感じられた。
今まで、僕はルーナの事を、"恵まれた者"だと思っていた。
僕と違って、世界に選ばれた"真の主人公"なのだと。
今は、なんてバカな事を考えていたんだと思う。
彼女は、僕やその周りの人々のために、ただただ歯を食いしばって頑張っていたのだ。
思えば、ヒロイン補正だと思っていたそれは、彼女の心の強さそのものだったのかもしれない。
誰かのために頑張る。その気持ちが、彼女に本来の力以上を与えていた。
「これは、私の勝手な考えです。でも、心からの願いでもあります。まだ試験の途中で、こんなことを伝えてしまって、ごめんなさい。困りますよね。こんなこと言われても」
かざしていた手を降ろし、頭を下げるルーナ。
僕はそんな彼女の身体を正面から抱きしめていた。
彼女の本懐を知って、僕はこれまで以上に、彼女の事を愛おしく感じていたのだ。
そして、彼女に対する確かな敬意も。
「ルーナちゃん……私は……」
胸の中に湧き上がってくる気持ちを上手く言葉にできずにいると、ルーナは優しい所作で僕の腕を解いた。
「セレーネ様。私、きっとこの苗を育ててみせます」
ゆっくりと身体を持ち上げつつ、改めてそう宣言したルーナ。
それは僕の手は借りない、という意思表示のようにも感じられた。
彼女は、これまで何度も見せてきた意志の籠もった瞳で、僕を見つめている。
そのどこまでも真っすぐな瞳は、僕にとって、あまりにも眩しく感じられたのだった。
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