233.お兄ちゃん、きっかけを知る
暁の騎士様と一緒に、聖女試験の対策をすることになった私。
とはいえ、試験の課題はまだ教えてもらっていない。
何をしたら良いのだろう、と思っていたら、騎士様は私に突然木剣を渡してきた。
「これは?」
「見ての通り木剣だ。君には、これから剣を学んでもらう」
「ええぇー!!」
な、なんで!?
「おそらくだが、最初の聖女試験は、剣術になる」
「そ、そうなんですか!?」
聖女と剣術。
何の関係があるんだろう、という感じだけど、なぜか騎士様が言うと説得力がある。
「あ、だったら、セレーネ様にも教えて差し上げないと!!」
「いや、それは大丈夫だ。彼女は元々剣術の心得がある」
「あっ、そうでした!!」
そう言えば、セレーネ様はアニエス師匠に剣を教えてもらっているんだった。
私も減量していた時に、少しだけ見せてもらったけれど、凄く格好良かったなぁ。
でも、セレーネ様と戦うことになるなんて……。
「わ、私、大丈夫でしょうか……!?」
「大丈夫にするために、剣を学ぶのだ。さっそくやるぞ」
「は、はい!!」
学園の端にある目立たない林の中まで来ると、私は騎士様の指導の元、木剣を振るった。
とはいえ、剣を振るうなんて、アニエス師匠にダイエット目的でさせられたぐらいの経験しかない。
思いのほか厳しい指導に耐えかねて、私は地面へと突っ伏した。
「も、もう無理です……」
「ふぅ、やはり少し厳しいか」
騎士様は仕方ないというように肩を竦めると、どこからか取り出した水筒を差し出してくれた。
「ありがとうございます」
乾いた喉を潤すと、少しだけ身体が楽になった。
しかし、立ち上がろうとしても、重い腰を持ち上げることができない。
「やれやれ、これではとても、セレーネ・ファンネルに勝てるようにはなれんな」
「セ、セレーネ様に勝つなんて、できるわけないじゃないですか!!」
当然のようにそう言うと、騎士は仮面越しにもわかるくらいキョトンとした。
「君はセレーネ様に勝ちたいから、私の指導を受け入れたわけではないのか?」
「違います。少しでも、恥ずかしくないようにしたかっただけです」
せめて、セレーネ様に良い感じに負けられるくらいには、剣を振るえるようになっておきたいし。
「それでは困る。君には、セレーネ様に勝ってもらわねばならない」
「む、む、無理無理無理ですよ!! セレーネ様は剣だって、ずっと強いんですから。そもそも私、聖女になんて別になりたく……」
「君に聖女になってもらわねば、困る人がいるんだ……」
「えっ……?」
私が聖女にならないと、困る人?
「それはいったいどこのどなたですか?」
「それは……」
一瞬躊躇したように見えた騎士様だったけど、すぐにゆっくりと口を開いた。
「紅の国の王子レオンハルト……様だ」
「レオンハルト様ですか」
「あ、ああ……」
レオンハルト様には、私も会ったことがある。
お茶会の時に、一緒にお話しさせてもらったのだ。
とっても凛々しい方で、セレーネ様ともとても仲が良さそうだった。
「セレーネ様とレオンハルト様は、お互いに将来を約束した婚約者なのだ」
「そ、そ、そ、そうなんですか!!!?」
そういえば、なんだか周りの女の子達がそんな事を言っていたような気もする。
そっか。だから、お二人ともあんなに親し気だったんだ……。
セレーネ様とレオンハルト様は、愛し合っている。お、大人だ……!!
つまり、騎士様が私を聖女にしたい理由は、セレーネ様とレオンハルト様に、ちゃんと結婚して欲しいからということ。
そこまで考えて、さすがの私もハッとした。
もしかして、騎士様は……。
「あ、あの、間違っていたらすみません。もしかして、騎士様は……」
ぱちくりと見開いた目で騎士様を見ると、彼もゆっくりと頷いた。
「ああ、そうだ。私は、いや、俺は──」
「やっぱりそうなんですね!! 騎士様は、紅の国の"騎士団の方"なんですね!!」
「えっ……!?」
ん、あれ、違ったのだろうか。
「違うんですか? てっきり、紅の騎士団の方が、主であるレオンハルト様のために動いていらっしゃるのかと」
「へっ? あ、いや、そ、そうだ!! 私は、紅の騎士団に所属しているレオンハルト様の近衛だ」
「うわぁ!! 騎士様は本物の騎士様だったんですね!! カッコいいです!!」
まさか、こんなところで本物の紅の騎士団の団員さんに出会えるとは。
なるほど、だからこんなに剣の腕が立つんだ。
紅の騎士団と言えば、カーネルの男児にとっては憧れの的だ。
村の男の子たちも、よく騎士団ごっことかしてたなぁ。
「とにかく、君に勝ってもらわねば、レオンハルト様が困る」
「セレーネ様も、心の奥では、それを望んでいらっしゃるのでしょうか?」
「そ、そうだ……。内心では、たぶん……きっと」
「わかりました!!」
重い腰を気合で持ち上げた私は、シャキリと背筋を伸ばす。
「私、頑張ります!! お二人の"愛"のために!!」
「あ、ああ!! 頼むぞ、ルーナ!!」
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