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232.お兄ちゃん、疑問を問い掛ける

 僕にライバルだと認められたルーナ。

 いや、僕自身はずっと前からそう思っていたわけだが、彼女の中には、何かしらコンプレックスのようなものがあったらしい。

 思えば、試験が始まる前は特に、ルーナは僕の事をよいしょしてばかりだった。

 クッキーづくりの時も、自分の手柄にすることはなく、ひたすらに僕の事を褒めてばかりだったもんな。

 だから、僕にはずっと気になっていることが一つある。

 ルーナと二人っきりのこの機会。僕はそれを彼女に聞いてみることにした。


「ねぇ、ルーナちゃん」

「はい、セレーネ様」

「なんで、ルーナちゃんは、そんなに聖女になりたいのですか?」


 ルーナが聖女を目指す理由。それが僕にとって1番の疑問だった。

 本来のゲームの世界では、ルーナには悪役令嬢であるセレーネに対する反骨心があった。

 いじめられた境遇の中で、彼女に負けたくないという強い意志が、ルーナの聖女になるという原動力の大部分を占めていたはずだ。

 だが、ゲームとは違って、今の僕とルーナは仲良しだ。

 だから、なぜ彼女がこんなにも聖女になりたいと無理をしてでも頑張っているのか。

 それが、僕にはどうしてもわからなかった。


「えっと、一つはずっと言っている通りです。セレーネ様に並び立ちたいから……です」


 僕の疑問に対し、ルーナは戸惑うことなくそう答えた。

 僕と並び立ちたい。

 それは、言い換えれば、自分をライバルとして認めて欲しい、ということだ。


「自分でもおこがましいとは思っています。でも、セレーネ様と試験を受けているうちに、いつしかそう思うようになったんです」


 軽く自虐しつつも、穏やかな笑顔を浮かべるルーナ。


「試験を受けているうちに……ということは、最初は違ったんですの?」


 僕がそう問うと、彼女はどこか思い出し笑いをするように微笑んだ。


「はい。きっかけは、とても些細な事でした」

「些細な……?」

「はい、私は聖女になりたいと初めて思ったのは、あの日……あの人に出会った時でした」




「聖女候補、ルーナだな」

「えっ?」


 1人での下校中、突然かけられた声に振り向いた私。

 目の前に立っていたのは、目元だけを覆う銀色の仮面をつけた男の人だった。

 燃えるように真っ赤な赤髪で、学園の生徒が着用する白い制服を身に纏っている。

 今日はどこかで仮装パーティーでもあるんだろうか?

 そんな明後日の疑問を頭の中で考えていると、彼はゆっくりと近づいてきて、こんなことを言った。


「君の聖女試験の手伝いをしたい」

「えっ、お手伝いしてくれるんですか!!」

「ああ」


 彼はコクリと頷く。

 聖女試験はもうあとひと月もすれば始まってしまう。

 どんな試験があるかはわからないが、正直とても不安だった。

 勝てないのは当然だけれど、あまりに不格好が過ぎたら、同じ聖女候補であるセレーネ様にも迷惑をかけてしまうかもしれないし。


「是非、お願いします!!」


 だから、私は二つ返事で頭を下げた。


「ああ……。だが、その……」


 目の前の仮面の人は、なぜか戸惑ったように何かを言い淀んだ。


「君は、私の事を怪しくは思わないのか?」

「へっ?」


 仮面をつけているから素顔はわからないけど、嫌な感じはしない。


「はい、別に」

「そ、そうか。なら、いいんだが……」


 どこか拍子抜けしたような仮面の人だったけど、すぐにピシりと姿勢を正した。


「ゆえあって、仮面を取ることはできない。だが、私の事は、"暁の騎士(ナイト)"とでも呼んでもらえればいい」


 騎士という呼称を聞いて、初めて彼が帯剣していることに気づいた。

 豪奢な飾りのついた高そうな剣だ。


「わかりました!! 暁の騎士様!!」


 こうして、私は騎士様と一緒に、試験に向けて対策をすることになったのだ。

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