231.お兄ちゃん、ライバル認定する
「うわぁ!! すごーい!!」
入浴を終え、部屋に戻ってきたルーナは、僕とルイーザが用意した夕食を見て、感激の声を上げた。
とはいえ、大したものを用意したわけではない。
たった一品のスープ。
それに、シュキが用意していた材料を使った簡単なサラダとパンを添えただけだ。
それでも、しばらくまともな食事を摂っていなかったルーナにとっては御馳走だったようで、すぐさまぺろりと平らげてしまった。
「ふぅ、ごちそうさまでした!!」
「平民、感謝するのですよ。セレーネ様が手ずから作って下さったのですから」
「ありがとうございます!! セレーネ様!!」
「いえいえ」
恥ずかしがって言わないけど、むしろルイーザの方が気合入っていた節あるしね。
何にせよ。健康な生活に必要不可欠な風呂と食事を摂らせることはできた。
あとは、しっかりと睡眠を取って欲しいところだが、さすがにここでルーナが休むように監視しておくわけにもいかない。
どうしたものかな、と一瞬悩んでいると、先にルーナの方がシュキに声をかけた。
「そういえば、シュキちゃん。忙しいんじゃなかったの?」
「ええ、まあ」
シュキは素直に認めつつも、わずかにムッと顔をしかめた。
「新歓の時期だからね。気合入れて毎日勧誘活動に必死なのはそう。去年はあの人の劇団にしてやられたって、先輩たちも悔しがってたから」
あの人とはもちろんアミールのこと。
そう言えば、去年はアミールが入学早々劇団員を募集して、楽器隊まで編成してたんだよな。
初動で大きく差をつけられたアルビオン学園演劇部は、多くの新入部員を取りのがしてしまっていたわけだ。
そりゃ、今年は負けたくない気持ちにもなる。
「じゃあ、私のところなんか来てる場合じゃ……」
「いいのよ。部員は私だけじゃないし、それにこんな時間までは勧誘もしていないから」
苦々しい顔を綻ばせたシュキは、ルーナを安心させるように少しだけ微笑む。
「そう言えば、アミール様。また、何かショーを考えているようでしたわ」
「そうなのですか?」
「はい、先日たまたまお見かけした際、何やら熱の籠もった練習をされていたようなので」
アミールのやつ、こんな時期にまた舞台をやるんだろうか。
聖女試験以降も、なにやら小さな舞台を企画してたびたび披露したりはしているみたいだけど、本当精力的だな。
「悔しいけど、ほんとにあの男は……」
ルイーザからの情報に、シュキが再び苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。
だが、すぐにフッと力が抜けたように息を吐いた。
「まあ、正直あの人のおかげで張り合いができた感は否めませんけどね」
シュキとアミール。
アルビオン学園演劇部とアミール劇団。
同じく演劇を志す二つの組織があるおかげで、お互いが切磋琢磨できているというこの状況。
口ではなんだかんだと言いながら、シュキもある程度満足しているようだ。
ライバルはお互いを成長させる。
だからこそ、きっと聖女になるためのこの試験も、候補者同士で競わせているのだろう。
聖女試験を通して、僕もルーナもこの1年で大きく成長できたように思える。
ちらりと、鉢植えを見た。
うん、やっぱり僕は……。
「そろそろお暇致しますわ」
ゆっくりと立ち上がる僕。
すると、シュキとルイーザも同じく立ち上がった。
「平民、しっかり睡眠も取るのですよ。あなたが倒れでもしたら、お優しいセレーネ様が心配されますから」
「ありがとう、ルイーザちゃん。でも、私……」
鉢植えを抱きしめるようにして抱えるルーナ。
その姿を見て、ルイーザはなにか言おうとしたが、僕はそれを静止するようにそっと腕を上げた。
「シュキさん。ルイーザさん。先に外に出ていて下さいますか?」
「セレーネ様……」
僕の言葉に、2人は素直に頷いてくれた。
そそくさと小屋の外へと出ていく2人。
残された僕とルーナはお互い少しだけ距離を取り、向き合っている。
どこか伏し目がちなルーナに向かって、僕は静かに声をかけた。
「私、ルーナちゃんには感謝していますの」
「えっ……?」
「ルーナちゃんがいなければ、私はきっともっと楽な道を歩もうとしていたでしょうから」
破滅エンドを回避するために嫌々始めた聖女試験だった。
自分が悪役令嬢であり、ヒロインと戦うという構図。
それは、時に苦しいことでもあったが、それでも、ルーナだったからこそ、僕は前向きにこの試験に取り組んでこれたのだと思える。
「私は、ルーナちゃんの事を友達だと思っています。だから、あまり無理をして欲しくない」
でも、と僕は続ける。
「同時に、私はあなたのことを本当のライバルだと思っています」
その言葉を聞いた瞬間、ルーナの目が少しだけ見開いた。
それはもしかしたら、彼女が一番欲しがっていた言葉だったのかもしれない。
思えば、今まで、僕の方からルーナをライバルだと呼んだことは無かったかもしれない。
それに対して、ルーナは聖女試験が始まった頃から、ずっと僕のライバルでありたいと言っていた。
僕と対等な人間でありたい。
それがルーナの願いであり、同時に、ルーナにそう思われている僕自身の誇りでもあった。
「だから、必ずその花を咲かせて下さい。私のライバルは、きっと簡単には諦めない、そんな方だと信じていますので」
そう伝えると、ルーナは少しだけ泣きそうな瞳で、ただただ力強く首を縦に振った。
「はい、必ず……必ず!!」
ルーナの強い意志の籠もった瞳が、僕の瞳を真っ向から見据えていたのだった。
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