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228.お兄ちゃん、拒絶される

「はぁ……」


 明らかに意気消沈した様子のルーナ。

 それもそのはず。

 彼女のシーダの苗は、2週間が経っても、まだ芽を出していない。

 コリック先生からのチェックが終わったその帰り道。

 珍しく元気のないルーナと歩調を合わせるようにして、僕はゆっくり歩いていた。

 ここまで落ち込んだルーナの姿を見るのは、初めてかもしれない。

 いつも、試験に臨む時は元気いっぱいで、たとえ初めてやることでも、明るい笑顔で全て乗り越えてきてみせたルーナ。

 そんな彼女が、今回ばかりは、どうにもならない、というように肩を落としている。


「ルーナちゃん……」


 同情……ができる立場ではないのはわかっているが、やはり彼女のこんな姿を見るのは忍びない。


「大丈夫ですわ。ルーナちゃん。私と同じように種まきをしたのですから、きっともうすぐ芽が出ます」

「そう……だといいんですが」


 普段であれば、「そうですよね!!」と明るく返してくれそうなルーナ。

 だが、やはり反応は芳しくない。

 どうやったら、慰めてあげられるだろうか。

 そんな風に考えながら歩いていると、急にルーナがその足を止めた。


「ルーナちゃん?」


 正面を向いて、少しだけ驚いた表情を浮かべているルーナ。

 その視線の先に僕も目を向ける。


「暁の……騎士」


 およそ半年ぶりだろうか。

 第3試験の後はついぞその姿を見せなかった彼が、僕らの進む道の先に立っていた。

 物言わぬ仮面の瞳が、ただジッとルーナの事を見つめている。

 なぜ、突然彼が?

 そう考えた時、ハッと僕は思い至った。

 これまでの試験は、暁の騎士が彼女をサポートできる内容のものばかりだった。

 だが、剣を指南し、乗馬を教え、演劇で舞台を共にした暁の騎士であっても、今回の試験ばかりは、何のサポートをすることもできない。

 白の魔力は、聖女候補である僕らしか持ち合わせていないのだから。

 それを表すように、ただただ棒立ちのままに、ルーナの事を見つめ続ける暁の騎士。

 その無言の圧力なようなものを受けて、ルーナの瞳に再び炎が灯ったのが、僕にもわかった。

 暁の騎士に向かって、コクリと頷いたルーナ。

 それを受けて、暁の騎士も首を縦に振った。

 そして、次の瞬間には、彼は驚異的な脚力で宙を舞うと、そのままいずこかへと姿を消した。

 最後まで彼の姿を見送ったルーナは、キリっとした表情で僕の方へと視線を向ける。


「セレーネ様!!」


 僕の名前を呼ぶその瞳には、もうすでにさっきまでの弱々しさは感じられない。


「私はセレーネ様のライバルです!! だから、きっと次の機会までには、必ず芽を出させて見せますから!!」


 それだけ言うと、ルーナはいてもたってもいられないというように、僕に背を向けると駆け出した。

 鉢をその細い腕に強く抱き、遠ざかっていく彼女の背中。

 その背中は、どこか僕にとって、眩しく感じられるようだった。


「やっぱり、ルーナちゃんですわね」


 どんなときだって、真っすぐに自分の目標に向かって全力を尽くす。

 へこたれることがあったって、決して諦めはしない。

 それが、この世界のヒロインたるルーナという少女の本質だった。


「私も、私のやるべきことをしなくちゃですわね」




「セレーネ・ファンネル様……!?」


 白の教会の前に立った僧兵は、僕が聖女候補であることに気づくと驚きの声を上げた。

 アポなしでやってきたのだから、それも当然だろう。

 ここに来るのは、聖燭祭の時以来だ。

 そして、僕には、ここに来る目的があった。


「突然の来訪失礼致します。ルカード様に、お会いできないかと思いまして」


 そう。僕の目的とはルカード様に会う事。

 学園への派遣が終了してしまったルカード様は、今は白の教会で働いているはずだ。

 なぜ、試験官の立場を自ら退いたのか。

 その理由を彼に問い詰めるべく、僕はこの場所を訪れたというわけだった。


「ルカード様ですか。その……」


 僕のお願いに、なんだか歯の奥に物が詰まったかのように口ごもる僧兵。


「どうかなされたのですか? もしかして、ご病気とか?」

「い、いえ、そういうわけではありません。ただ、その……」


 煮え切らない態度。

 答えを求めて、ひたすらに見つめて続けていると、やがて僧兵は観念したかのように口を開いた。


「実は、ルカード様に止められているのです。セレーネ様がいらっしゃっても、けっして取り次がないように、と」

「えっ……」


 何……それ……。


「ほ、本当に、ルカード様がそうおっしゃっているのですか……!!」

「も、申し訳ありません!!」


 問い詰めても、僧兵はただただ謝るばかり。

 そんな彼にクルリと背を向けると、僕はただ呆然と歩き出していた。

 鈍器で殴られたかのように、頭がクラクラする。

 えっ、本当に……?

 ルカード様が、僕に会いたくないと、そう言ったの……?

 その事実に、自分は思っていた以上にショックを受けていた。

 ずっと僕に寄り添ってくれていた人からの明確な拒絶。

 首筋がスッと冷たくなると同時に、目元にどうしようもない熱が押し寄せて来る。

 泣くのだけはグッとこらえて、僕は唇を引き結ぶ。

 き、きっと、何か事情があるんだよ。

 ルカード様が、僕と会いたくないだなんて、そんなこと言うわけが……。


「お嬢様」


 教会の前で待っていてくれたアニエスの心配そうな声が聞こえた。

 泣き出しそうな気持ちをグッとこらえて、僕は顔を上げると同時に笑顔を作った。


「どうやら、ルカード様はお忙しいようでした。また、日を改めようと思います」

「ですが、お嬢様、顔色が……」

「何でもありませんわ。ほら、早く学園に帰りますわよ。シーダの苗の世話をしないと」


 誤魔化すようにそう嘯くと、僕は顔を見られないように、アニエスよりも前を足早に歩く。

 胸には、なんともいえない寂しさが、どうしようもなく広がっていた。 

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