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224.お兄ちゃん、代表を務めあげる

「素晴らしい演説でしたわ!! セレーネお姉様!!」


 目をキラキラと輝かせたミアが、僕へと賛辞を送ってくれる。

 同じくその横では、シルヴィも感動したような面持ちで僕へと熱い視線を向けていた。

 新入生の歓迎会。

 コリック先生の鬼指導のおかげか、およそ完璧といっても良いレベルの挨拶ができた僕は、歓迎会後、新入生に囲まれていた。

 ミアとシルヴィを筆頭に、僕を中心に集まって来る1年生の女子生徒達。

 その数は30人は下らないだろう。

 ちょっとしたジャ〇ーズ気分だぜ。

 いや、まあ同級生の取り巻き同様、家格の高い僕とお近づきになっておきたい貴族令嬢は多いだろうから、ほとんどはその類かもしれないけど。

 とはいえ、その割には、みんなミアやシルヴィと同じように、熱烈な視線でこちらを見ているような気もする。

 コリック先生の指導が有能過ぎたのか、どうやら僕の挨拶は、新入生の心に届いてくれたようだ。

 

「セレーネ様、本当に素晴らしかったです! これからの学園生活に希望が湧いてきました!!」

「私も、ここにいられる4年間の価値を見失わないように、精一杯頑張りますわ!!」


 決意を固めるようにそんな殊勝な事を宣う女子生徒達もいる。

 この様子を見ていると、在校生からの挨拶という観点から見て、大成功といっても良いだろう。

 しかし、こんなに褒められると、さすがに照れ臭いな。

 と、そんな風に感じていた、その時だった。

 突然、モーセが海を割ったかのように、女子達の人だかりが左右に開いた。

 何事かと思ったが、すぐに合点がいった。

 長身痩躯で黒髪の眼鏡イケメンの姿。

 そう、現れたのは、ある意味この状況を作り出した張本人とも言える人物、コリック先生だった。

 僕なら突入するのがはばかられるような女子の波をまるで気にもせずに、真っすぐに歩いてい来るコリック先生。

 相変わらずのブスっとした仏頂面も、周りの女子達からすると怜悧で聡明な印象に感じられるらしく、頬を赤らめているような娘も中にはいた。

 そんな娘達に向けて「いや、この人相当辛辣だよ。恋人にしたら、日々心折れるよ。きっと」と心の中で、仄かに助言を送りつつ、僕は彼が近づくにつれ、視線を合わせるように顔を上げた。


「どうでしたか。挨拶は?」

「周りの生徒達を見れば言わずともわかるだろう。悪くはなかった」


 彼にしては、随分とお優しいこと。

 何にせよ。不合格とは言われなかったので、良かった良かった。

 と、ほんの少し胸を撫で下ろしていると、彼が僕の手首を掴んだ。


「ちょ、先生……?」

「用がある。ついてこい」

「え、ええっ!?」


 僕の返事など待たず、そのままずんずん歩き出すコリック先生。

 どうして良いかわからず、とりあえずされるがままに引っ張られていく僕を周りの女子生徒達が、目をぱちくりさせながら眺めていたのだった。




「ちょっと、コリック先生。いきなりすぎます。これじゃ、周りの生徒達にどう思われるか……」

「ドキドキしたか?」

「また、それですか……」


 はいはい、ドキドキしましたよ。

 あとで、ミアやシルヴィにどう説明しようか、という心配的な意味ですけど。


「それで、どこに行くのですか?」

「ここだ」


 と、いつの間にやらやって来ていたのは、僕にとってはなじみ深い、白亜の塔だった。


「えっと、何でここに……?」


 ポツリと口にした疑問を華麗にスルーして、そのまま僕の手を引っ張り中へと連れて行くコリック先生。

 白亜の塔の1階にある大広間へとたどり着くと、そこにはルーナの姿があった。


「あっ、セレーネ様!」

「ルーナちゃん?」


 ようやくコリック先生から手を放された僕は、握られ続けていた手首をさすりながら、彼女の方へと近づいていった。


「ルーナちゃんがここにいるということは、もしかして……」


 時期としては、確かにそろそろだと思っていた。

 最後の聖女試験、そのスタートは2年目の春だったはずだ。

 僕とルーナがここに連れて来られたということは、その事で間違いないだろう。

 しかし……。

 僕は周囲を見回す。

 いつも聖女試験の内容を事細かに説明してくれるルカード様。

 その温和な顔が、どこを見渡しても見つからない。

 試験官である彼がいないということは、聖女試験の説明ではないのだろうか……?

 疑問に思う僕の脇を縫うようにして、その場にいたもう一人──コリック先生が、普段のルカード様の立ち位置である上段へと足を進めた。

 そして、ゆっくりと振り返る。

 時刻は正午の少し前。

 天頂から差し込んだ光が、彼の姿を逆光で照らしている。

 どこか後光が差しているようにも見えたその刹那、彼は言った。

 普段の会話と同じように、何気ない口調で。


「改めて挨拶をしよう。最終試験の試験官を務めるコリックだ」

「………………えっ?」


 絶句、とはこういうことを言うのだろうか。

 今この人は何と言った。

 最終試験の試験官を務める?

 いやいや、聖女試験の試験官と言えば、ルカード様でしょうが!!


「あ、あの、試験官はルカード様ではないんですか……?」


 当然の疑問をルーナが口に出す。

 そうだそうだ!! と心の中で強く思いながら視線を向けると、コリック先生は、クイっと眼鏡を上げながら、その疑問に答えた。


「彼は、最終試験の試験官を自ら辞退した」

「自ら……辞退って……」


 ルカード様本人の意思で試験官を辞めたってこと!?

 そんな、どうして……。


「セレーネ・ファンネル。そして、ルーナ」

「は、はいっ!!」


 ショックのあまり放心しつつあった僕だったが、威圧感のある低音ボイスに、思わずびくりと背筋を伸ばす。

 

「これより、最後の聖女試験"魔"の試験の説明を始める」


 異論は認めない、というように、断固とした口調でそう宣うコリック先生。

 冷徹な表情で僕らを見下ろすその姿に、僕の胸からは、とめどなく不安が溢れ出していたのだった。

次話で進級編終了。いよいよ、最後の聖女試験編に入ります。


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