218.お兄ちゃん、学校を案内する
「ここが白の聖塔ですわ」
目の前に立つ白一色の塔を指し示しながら、僕はにっこりと微笑む。
学園のオリエンテーションも終わり、時間は放課後。
ミアと合流した僕らは、学内の案内をしていた。
なにせ、このアルビオン学園は広い。
単純な広さで言えば、ファンネル公爵家も決して負けてはいないのだが、敷地内の施設の多さで言えば圧倒的だろう。
これまで言ってみればひきこもりのような生活をしてきたミアにとっては、まさに目まぐるしい場所なわけで、さっそくじっくりと学内を回ってみようという話になったのだった。
「立派ですわ! ここでいつも試験を?」
「ええ、実際に試験を受ける場所は様々ですけれど」
「いつも試験の説明を受けるのはここなんだ~。セレーネ様と一緒に、ルカード様から色々──」
「ルーナちゃん!!」
何気なく素のままに答えるルーナの口を慌てて塞ぐ。
僕自身忘れかけていたが、そう言えば、ミアにはルーナを"ただの"貴族の娘であると紹介していた。
それは、ルーナが聖女候補だとわかれば、入学当初のフィンのように、"敵"という認識を抱くのではないかと疑っていたからだ。
実際夏休みで帰省した際も、ルーナの正体を告げないままに分かれることになった。
しかし、こうやって入学した以上は、いつまでも騙しきることもできないだろう。
「あ、あの、ミア。その落ち着いて聞いて欲しいのですが……」
半ば観念したような気持ちで、ミアにルーナが自分と同じ聖女候補であることを告げようと重い口を開く。
しかし……。
「なるほど、聖女候補揃って、説明を受ける場所なのですわね。興味深いですわ」
「えっ……!?」
あれ、もしかして……。
「ミア、その……。ルーナちゃんが聖女候補だということは……?」
「あ、はい、知っております」
いや、知ってたんかい!!
すると、ミアではなく、ルーナの方が、てへへ、と頭を掻いた。
「セレーネ様、ごめんなさい。実は、夏にお邪魔した時に、ボロが出てしまって」
つまるところ夏休みの時点で、ミアはもうルーナが聖女候補だって知っていたってこと?
まあ、確かにルーナは人を騙したりとかとにかく苦手そうだけど、どうやらミアの前でボロが出たタイミングで、全て白状してしまっていたらしい。
「同じく聖女を目指す間柄にも関わらず、仲が良いなんて素敵ですわ。セレーネお姉様の度量の広さが伺い知れます」
「あ、あははは……」
僕とルーナが仲良くしていることをミアはどうやら肯定的に受け取ってくれたようだ。
昔の苛烈な彼女を知っているだけに、必要以上に心配をしてしまっていたが、その反応を見て、僕はホッと胸を撫で下ろした。
「あ、あの……」
と、声をかけて来たのは、同じく学園案内についてきたシルヴィ。
どこか一歩引いたような雰囲気の彼女は、先ほどからキョロキョロと周囲を覗っていた。
「ほ、本当に、私なんかが一緒に案内をしていただいていいのでしょうか……?」
公爵令嬢であり、姉の雇い主でもある僕に対して、どうやら彼女は気後れしてしまっているようだ。
アニエスの実家で話をした時は、姉との関係もあってか、もう少し気安い感じがあったのだが、こうやって多くの貴族が生活する場に来てしまうと、改めて身分や立場の差を感じてしまうらしい。
彼女を安心させるように、僕はニッコリと微笑む。
「もちろんですわ。新入生に学内を案内するのは、先輩として当然の務めですもの」
「そうですわ。私もアニエスさんにはお世話になっていますし」
「で、でも……」
メンバー一人一人の顔を見て、それでもシルヴィはなかなか胸襟を開いてくれない様子だ。
シェール騎士爵家が取り潰しになった今、彼女は母の実家である紅の国のとある田舎の領出身ということになっている。
母方の性を名乗り、現在は名前もシルヴィ・ロワールというそうだ。
その階級は男爵家。それも、僻地の小さな領ということで、ほとんど準男爵のような扱いをされているようだ。
対して、僕とミアは公爵家。
ルイーザも本人の気質からはあまり印象がないが、伯爵家の令嬢だ。
ルーナは平民だが、僕と同格の聖女候補という肩書を持っている。
ともなれば、一歩引いてしまうのも当然といったところか。
うーん、どうしたら、彼女の緊張をほぐしてあげられるだろうか。
そんなことを考えていると、僕よりも早く、サッとシルヴィの手を取る者がいた。
「シルヴィ様、そんなに緊張なさらないで」
「え、あっ……」
唐突にシルヴィの手を取ったのは義妹のミア。
いきなり手を取られた彼女が視線を上げた先で、ミアはにっこりと微笑んだ。
「私も学園は初めてですが、シルヴィ様のような素敵な同級生と出会えて、今とってもウキウキしているのですわ」
「そ、そんな、私なんて……」
「アニエスも綺麗でしたが、あなたもとっても綺麗ですわよ。それに、その奥ゆかしさも素敵ですわ」
きっと心からの言葉だろう。
ストレートな賞賛に、シルヴィの顔がみるみる紅く染まっていく。
「ミ、ミア様の方が、よほど……」
「うふふ、では、私達、美少女同士ですわね」
冗談めかしてそう言ったミアは、ギュッと強くシルヴィの手を握り締めた。
「あ、あの……。シルヴィ様」
「は、はい……」
「私の最初の友達になっていただけませんか……?」
少しだけ緊張したようにそう告げたミア。
彼女にとって、同年代の娘とこうやって話をするのもほとんど初めての体験だったろう。
何でもないように見せかけているが、実のところ、本当に緊張しているのはミアの方だったのかもしれない。
「も、もちろんです……!! わ、私なんかで良かったら……!!」
「あ、あなた"で"良いのではありませんわ。あなた"が"良いのです……」
最後は消え入りそうな声になってしまったが、なんだかむず痒そうな表情でお互いに見つめ合う2人。
そんな姿を見ると、こっちの方がよほどむず痒くなってしまいますわ、ええ。
「なんというか……」
その光景を見つつ、ルイーザが一言。
「さすが、セレーネ様の妹ですわね」
「うん、そっくり」
追い打ちをかけるようなルーナの声が、ポツリと僕の耳に入ったのだった。
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