217.お兄ちゃん、新入生を迎える
4月になった。
2年生になった僕達だが、生活が大きく変わったわけじゃない。
前世の大学のように単位制を採用しているこの学園ではクラス替えもなければ、学ぶ教室が変わることもない。
ともすれば、実はまだ1年生のままなのではないか、なんて感じてしまいがちだが、明確に上級生になったと感じさせられることが一つある。
それは……。
「セレーネお姉様!! おはようございます!!」
そう。後輩の存在である。
寮舎を出てすぐのところで、僕の腕に抱き着いてきたのは、我が義妹であるところのミア・ファンネルだ。
夏に会った頃よりも、さらにずっと健康的になった印象を受ける。
お医者様から入学の許可が出たのも、当然だと感じさせられるほどに元気な姿に、僕もなんだか嬉しくなってくる。
「おはよう。ミア。朝から元気そうですわね」
「はい!! 昨日は眠れませんでした!!」
今日はミアにとっての初めての登校だ。
全身から、学園の生活が楽しみでたまらないといったオーラがにじみ出ている。
それも当然だろう。
ミアは幼い頃から身体が弱く、病のこともあって、同じ年齢の人たちと関わる機会というのが、これまでほとんど無かった。
その上、屋敷を出て生活するのもこれが初めてなのだ。
破滅エンドの件で、憂鬱な気分で入学した僕とは違って、彼女の心には、今希望が満ち満ちているようだった。
「制服姿、よく似合っていますよ」
「本当ですか!? でも、私なんかよりも、お姉様の制服姿が見られただけで、もう……」
うっとりとした表情で僕の姿を眺めるミア。
そういえば、制服姿を見られるのは今回が初めてか。
アルビオン学園の制服は、割と前世の学校に近いようなブレザータイプで、見た目も可愛らしい。
義妹と二人、制服姿で並んでいると、なんだか少し不思議な気分だな。
と、そんなことを考えていると、ミアの首元辺りから、ひょっこりと何かが顔を出した。
「あら、もぐぴー」
それは半年前。
実家を発つ際に、ミアへと譲り渡したあのモグラだった。
僕の魔力の影響か、半ば精霊と化したこのモグラは、ミアにとても懐いている。
久しぶりに会った僕の事をちゃんと覚えていたのか、もぐぴーはフンっと挨拶するように鼻を鳴らした。
そして、はむはむとミアの髪をはみはじめる。
また魔力を食べているようだ。
意図していた通り、もぐぴーはミアの余剰魔力を適度に食べてくれているらしく、彼女のグラデーションがかかった長い髪は、以前と変わらぬ色合いを維持していた。
「この子もすっかりあなたに懐きましたね」
「はい!! とっても仲良くしています」
愛おしそうに自分の髪をはむもぐぴーを撫でるミア。
僕とフィンがいなくなった屋敷の中で、ミアを精神的に支えてくれたのは、このもぐぴーの存在だった。
功労者のこいつにも、また、何か美味しいものでも持って来てやらないとな。
「お嬢様方。そろそろ参りませんと、時間が」
「あっ、そうでしたわね」
アニエスの言葉で、僕とミアは学舎へと歩き始める。
途中、ルーナやルイーザと合流すると、久しぶりに会うミアの姿に、2人もとても喜んでいた。
夏休みに彼女達を家に招いたのは正解だったな。
ミアを挟むようにして談笑している姿を見て、僕はホッと胸を撫で下ろした。
と、その時だった。
「あ、あの……」
小さな声が聞こえた気がして、思わず振り向く。
そこに立っていたのは、既視感の塊の美少女だった。
長いアッシュブロンドの髪を爽やかな春の風に揺らし、どこかこちらを伺うように不安げな表情を浮かべている美しい女の子。
その姿を見た瞬間、僕は思わず口走っていた。
「アニエス……」
そう、その少女の姿は、僕の従者であるアニエスそっくりだったのだ。
あれ、もしかして、ルカード様が制服コスプレしたみたいに、アニエスも……って、そんなわけがない。
この子はそう、紅の国でアニエスの実家に訪れた際に出会った、アニエスの妹だ。
「シルヴィちゃん、ですか?」
「セ、セレーネ・ファンネル様。覚えていて下さった……!」
安心したように、ホッと胸を撫で下ろす彼女。
"元"シェール騎士爵家の次女、シルヴィ・シェール。
入学パーティーでは顔を合わせることがなかったが、どうやら彼女も無事に学園に入学することができたらしい。
「入学おめでとうございます。シルヴィさん」
「も、勿体ないお言葉です!! セレーネ様!!」
初めての学園ということで、緊張しているのか、シルヴィはひょこひょことした動作で頭を下げた。
なんだか、鉄面皮がデフォルトのアニエスとは大違いだな。
なまじ、顔立ち自体はアニエスとそっくりだから、余計に違和感が凄い。
ただ、アニエスに顔が似ているということは、めちゃくちゃ美人なのは間違いなく……。
「あまり男子生徒の前には出したくありませんわね……」
「は、はい……?」
すぐにナンパされるだろうな。
しかも、この性格の感じだと、声をかけられたら、簡単について行ってしまいそうだ。
ミアも世間知らずだが、シルヴィも、あのシェール家の事情を考えれば、あまり世間の広さを知っているとは言えない。
なんだか、老婆心が湧いてしまい、僕はゆっくりとシルヴィに近づくと、その手を取った。
「あっ……」
「シルヴィさん。初めての学園で不安なことも多いでしょう?」
「は、はい……」
「なんでも頼って下さって構いませんからね」
「あ、ありがとう……ございます!!」
先輩らしく、優しさを意識してそう言ってあげると、シルヴィはなぜか顔を赤らめてコクコクと頷いた。
さて、これで、可愛らしい後輩が2人もできた。
変わらないと思っていた学園生活だったが、少しずつ変化を実感してきている僕だった。
「面白かった」や「続きが気になる」等、少しでも感じて下さった方は、広告下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけますと、とても励みになります。




