216.お兄ちゃん、1年を締めくくる
いつの間にか僕に並ぶようにして、女子達のわちゃわちゃを見ていたエリアス。
その表情には、どこか感慨深そうな色が浮かんでいる。
「初めてお茶会をした時から、もう1年近く経つのですね」
「ええ」
思えば色々な事があったなぁ。
4つの聖女試験に加え、夏の帰省や剣戦での出来事。それに、聖燭祭も。
入学前に考えていた以上に、濃い内容の1年だったように思う。
屋敷での穏やかな日常も嫌いではなかったけど、みんなといられる今の方が、僕は好きだった。
いや、好きになったと言った方が正しいかもしれない。
同じ庭園で初めてお茶会をした時は、僕にとって彼らはまだ、ただの"攻略対象"という気持ちの方が強かった。
でも、今は……。
気づくと、エリアスだけでなく、レオンハルトとアミールも傍にやってきていた。
彼らの顔を見るにつけ、いつの間にか、僕にとって、全員が大切な人になっていることを改めて感じる。
そして同時に、胸の奥の方で疼いた、ほんのわずかな痛みも。
「んだよ。なんだか、卒業するみてぇな雰囲気出してよ」
並んで遠い目をしている僕らを茶化すように声をかけてきたのはアミール。
「2年になるとはいえ、学園での生活はまだまだ続くんだ。今からそんなでどうすんだよ」
「お前は何も知らんな……」
レオンハルトが嘆息する。
「んだよ。大将、俺が何を知らないって?」
アミールが問い掛けるものの、レオンハルトは答えたくもないという風に視線を逸らしている。
レオンハルトが答えてくれないと見るや、アミールはエリアスの方へと顔を向けた。
「アミール様。次代の聖女として選ばれた者は、長く見積もっても半年後にはこの学園を去ることになります」
「はっ!? どういうことだよ!!」
目を見開くアミール。やはり、彼は知らなかったようだ。
考えてみれば、彼にはあまり詳しく聖女の引継ぎについて話したことが無かったかもしれない。
「聖女試験は残すところあと一つ。つまり、セレーネ様かルーナ。どちらが聖女様に相応しいか、審判が下されるのはそう遠い日ではありません」
「あ、ああ、考えてみりゃ、そうだが……」
「そして、聖女として選ばれた者は、教会で次代の聖女としての修行を始めることになります。つまりセレーネ様とルーナ。半年後には、どちらかはすでに学園にはいないということです」
「なっ……。マジかよ……」
確かめるように視線を向けて来るアミールに向かって、僕は黙って頷いた。
最後の聖女試験である"魔"の試験。
およそ3カ月という長いスパンで行われるその試験を終えた時、僕とルーナ、どちらが聖女として相応しいかが決まる。
そして、聖女に選ばれた者は、教会で現役の聖女様から"白の根源"と呼ばれる力を継承するための修行に入る。
そうなれば、こうやってみんなで集まれる機会を作ることは、二度とできないだろう。
「もう時間がねぇってことか……」
視線を伏せ、どこか真剣な表情で呟くアミール。
同じくエリアスとレオンハルトも、黙ったまま視線をどこかへと向けていた。
「皆さーん! 皆さんも私のお菓子召し上がってくださーい!!」
少し重苦しい空気を壊すかのように、いっぱいのクッキーを持って、ひょこひょことやってきたのはルーナだ。
半年後いなくなるかもしれない当の本人ののほほんとした態度に、妙に湿っぽくなっていた僕らも、なんだか毒気が抜かれたように視線を上げた。
「変わらねぇな。こいつは」
「アミール様が最初に言った通りかもしれません。今からこんな調子ではいけませんね」
「ありがとう。ルーナ」
それぞれがルーナからクッキーを受け取ると、僕らはゆっくりと咀嚼する。
あたりまえの素朴な甘さが、なんだか今は特に美味しく感じられた。
うん、僕もこんな調子じゃいけないよな。
切り替えるようにポンと手を叩くと、僕はみんなへととびきりの笑顔を向ける。
「そう言えば、私もクッキーを焼いたのですわ!」
「前のお茶会でも出してくれたあれか?」
「はい!! アニエス。すぐにお出しできますか?」
「はい、ご用意致します!」
前世直伝のカン〇リーマアム。
今日も皆に味わってもらうこととしよう。
見上げる空の青。
風の温かさが季節の移り変わりを感じさせる。
間もなく春が来る。
始まりの季節。
僕とルーナ、そして、みんなが一緒にいられる最後の季節。
この最後の時を後悔せずに過ごせるように、僕は自分の気持ちに真摯に向き合うことを誓うのだった。
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