213.お兄ちゃん、勉強を教えてもらう
はてさて、勉強会を開始してから1週間が過ぎた。
ルーナの学力向上は順調に進み、すでにどの教科もかなり正答率が上がってきている。
この分なら、"智"の試験として設定されたボーダーを超えるのも難しくはないだろう。
やはりヒロイン補正は強いなぁ。
正直、その能力に少し嫉妬してしまう。
「凡人は、一歩ずつですわね」
普段よりも少し早めに自習室に着いた僕は、先に一人で勉強を開始することにした。
ルーナの成績アップにかまけている間に、自分の方が落ちてしまったなんてことになれば、笑い話にもならないもんな。
特に苦手な史学の問題集を解いてみる。
大まかなこの大陸の歴史については学んできたが、細かい項目や人物の名称となるとまだおぼつかないところもある。
えーと、紅の国と拓いたのって、確か初代レオンハルトで、通称は──。
「獅子王様だね」
「あっ……」
僕よりも早くそう解答したのは、フィンだった。
今日も金髪美少女フィー姿の彼は、ゆっくりと僕の隣に腰を下ろす。
「姉様一人なの?」
「はい、今日は他の方々は少し遅れるようで」
「そうなんだ」
他のメンバーがいないとあってか、普段はおしとやかを演じているフィンがゆっくりと足を組んだ。
女子よりも細いのではないかというふとももがちらりと見えて、思わずどきりとしてしまう。
この姿で男子に迫ったら、すぐにメロメロにしてしまえそうだよなぁ。本当美人だわ。
「どうしかしたの。姉様?」
「いえ、改めて、フィーって美人だなと思いまして」
「姉様がそれ言う?」
ん、それってどういう意味だ?
とりあえず、あんまりフィンの女装姿ばかり眺めているのもあれだし、勉強の方に集中しないと。
けれど、やはり一番苦手な史学。
特に、今やっているところはかなり複雑な部分なので、資料を眺めながら四苦八苦といったところだ。
ん、でも、考えてみれば、史学のエキスパートがすぐに横にいるじゃないか。
「あの、フィン。私にも勉強を教えていただけませんか?」
我が弟は、次期ファンネル公爵家当主として、養子としてうちに来てから、怒涛の如く英才教育を受けさせられてきた。
その学力は、"碧の国の叡智"と評されるエリアスにも迫る勢いで、政治や経済等の分野においては、むしろ彼よりも上かもしれない。
もちろん大陸の歴史についても、かなり知識が深く、ルーナの教える際にも、色々な事を関連付けて、印象に残りやすいような教え方をしていた。
「もちろんだよ。姉様」
こうして、椅子を並べた僕とフィン。
基本は僕が問題集を読み進めていって、詰まったらフィンがフォローしてくれる。
史学や社会学なんかは、どうしても資料とのにらめっこになって、時間を浪費してしまうことが多いが、まるで辞書のようになんでも答えてくれるフィンが横にいてくれれば、効率は今までとは比較にならない。
あとは、彼が教えてくれることを忘れないように、僕はノートに記しながら、記憶すればいい。
「やはりフィンにいてもらえると、効率が違いますわね」
「そう? 姉様の役に立てたなら良かったよ」
柔らかく微笑むフィン。
その笑顔がなんだか、少し大人っぽくて、ドキリと胸が高鳴る。
「そ、そう言えば、ルーナちゃんへも勉強を教えてくれるなんて。フィンも随分仲良くなりましたわね」
わずかばかりの動揺を誤魔化すようにそう言うと、フィンはどこか遠い目をするように視線を彷徨わせた。
「悪い娘じゃないことは、もう十分にわかっているからね。でも、何より……」
目を閉じた彼は、静かな声で呟く。
「僕は……考えを改めたんだ」
「えっと、それってどういう……?」
視線を外していたフィンが、再び僕の方へと向き直る。
真っすぐに見つめる彼の瞳。
碧いその瞳には、僕の姿がはっきりと映っていた。
「僕は、姉様を聖女にさせたくない」
そう告げた彼の表情は、いつかその逆の言葉を告げた時と同じように真剣だった。
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