212.お兄ちゃん、勉強を教える
さて、ここで、アルビオン学園で学ぶ6つの主な教科について説明しておこう。
6つの教科とは、すなわち"文学"、"算術"、"史学"、"社会学"、"自然科学"、"芸術"。
文学はいわゆる国語で、文法や修辞学等も含めた広範な言語領域も含む。
その他は、おおよそ名前通りだが、ファンタジー世界らしく、自然科学には、魔法なんかの知識も含まれている。
「ルーナちゃんは、全体的に頑張らないといけませんわね」
ルーナの成績は、算術を除くと、まさに目も当てられない状態だ。
その算術自体も、実家の店番時代の貯金でなんとかしているようなものなので、成績を上げるには、他の教科と同レベルで頑張らなければならないだろう。
「試験までは2週間ですわ」
「一つ一つ重点的にやっている暇はありませんわね」
何せ時間がない。
僕とルイーザ、そして、シュキは視線を交わす。
「それぞれが得意な科目でルーナの先生役をいたしましょう」
「では、私は文学を担当しますわ。シュキさんは芸術をお願いできます?」
「わかりました」
「私は算術と自然科学を」
前世知識のある僕は、こちらの世界でも通用する理系科目が得意だ。
魔法についても、白の魔力の関係で色々自主的にも勉強したので、それなりには自信がある。
「史学と社会学はどういたしましょう?」
覚える固有名詞の多い2つの科目。
僕も平均を下回ることはないものの、あまり得意ではない科目だ。
ルイーザとシュキも同様のようで、赤点を取るほどではないものの、人に教えられるほどできるというわけでもないようだ。
「誰か、他に先生になっていただけそうな方がいらっしゃれば良いのですが……」
取り巻きの女子連中の中に、得意な娘がいるだろうか。
でも、あまりルーナ個人と親しくない人にお願いするのも気乗りしない。
勉強は女子学舎でやることになるし、エリアスなんかに頼むことも難しいしな。
うーむ、史学や社会学が得意で、ルーナとそれなりに親しく、女子学舎に出入りできる人物……あっ。
「いましたわ!!」
「それで、ぼ……私を呼んだというわけなんですね」
「そういうわけです」
両手をポンと合わせつつ、僕はにっこりと微笑む。
その視線の先にいるのは、見慣れた女子の制服を着た金髪の美少女フィー。
いや、美少女というのは偽りで、その中身は、女装癖のある我が弟だ。
「女子学舎はさすがに少し落ち着かないんだけど……」
「ルカード様だって、授業で度々入っていらっしゃいますし、気にする事ありませんわよ」
ルーナ達の手前、小声で話しかけてくるフィンに、僕は笑顔を張り付けたまま答える。
「はぁ……まあ、姉様の傍にいられるのは、正直嬉しいけどさ」
「ふふっ、まさかフィー様と一緒にお勉強ができるとは」
「宜しくお願いします!! フィーちゃん」
ルイーザとルーナが心底嬉しそうに笑っている。
うむ、やはりこの2人の中でのフィーの好感度は高い。
「さてさて、では、さっそく試験対策を始めるとしましょう」
「はい!!」
こうして、女子学舎の自習室の一角で、僕らの勉強会がスタートした。
基本は一人ずつルーナの横につき、学習のサポートをしていく。
「ここの文法はこうですわよ」
「あ、そっか」
真剣に教えるルイーザと素直にそれを受け入れるルーナ。
なんだかんだ面倒見の良いルイーザは、先生としてもなかなか優秀なようだ。
シュキは豆知識なんかも交えながら教えるので、ルーナも楽しそう。
問題はフィーだが……。
「こことここ……それとここをまずは押さえておきましょう」
「うん! フィーちゃん」
こちらも問題なさそうだな。
学園に入学したばかりの頃は、ルーナの事を少し嫌っているような節もあったフィンだが、この1年足らずの間にすっかりそんな気持ちは無くなってしまったようだ。
思いのほか近い距離感で教えるその姿は、傍目に見ても、女友達にしか見えない。
「さて、では、次は私の番ですわね」
続いて僕も、ルーナの先生になる。
まずは算術だ。
この世界における算術は、基本的に前世での中学生レベル程度のものなので、元が高校生だった僕にとっては、そこまで難しくはない。
金勘定についてはルーナは得意なので、それ以外の分野を中心に教えていく。
「時間の経過を表しているのがこちらの線です」
「なるほど! ということ、こっちは──」
色々教えていくのだが、やはり思った以上に吸収が早い。
その上、集中力もかなりのものだ。
ここまでほとんど休憩なしに、4人から勉強を教えられているというのに、疲れるそぶりもあまり見せない。
"舞い"の時も感じたが、ルーナのハイスペックはあらゆる分野で効果があるようだ。
この調子なら、2週間で成績を一気に上げることもできるかもしれない。
真剣な横顔を眺めながら、僕は少し楽観的に、そんなことを思っていたのだった。
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