211.お兄ちゃん、第4試験に臨む
それは青天の霹靂だった。
「では、これより第4試験の説明をさせていただきます」
「はい、ルカード様!!」
例の如く、学園内にある白亜の塔にて、ルカード様が柔和な笑顔を浮かべている。
いや、それはいい。
それはいいのだが……。
話が違う。
優愛からの情報では、第3試験までの結果が1勝1敗1引き分けのイーブンだった場合、確か第4試験はオミットされるという話ではなかっただろうか。
うん、確かにそう聞いていた。
だから、聖燭祭からこっち、対策もなにもせずに、のほほんと気の抜けた生活を送っていたのだが、ここに来て、第4試験実施しますだって。
いやいやいやいや。
不意打ちにもほどがあるだろう。
「どうかしましたか。セレーネ様?」
「い、いえ……」
内心の動揺をなんとか心の内にとどめつつ、僕は務めて平静にルカード様の言葉に耳を傾ける。
「さて、第4試験の内容ですが、今回の試験は、お互いに競い合ってもらうものではありません」
「え、そうなんですか?」
「ええ。今回は、こちらが指定したボーダーラインを超えれば、双方が合格という形の試験になります」
「ほう……」
ああ、なるほど、そういう形になったのか。
勝ち負けではなく、どちらも基準を超えれば、双方が合格。
教会としては、特別な意味を持つ五つ目の試験は可能な限り実施したいだろうし、この試験はあくまで形式的なものに過ぎないに違いない。
よって、おそらくそのボーダーラインというのは低めの設定になるはずだ。
「試験の内容はなんなんですか?」
「今回の試験は"智"の試験。お二人には、2週間後の期末考査で、一定水準以上の成績を収めていただくことになります」
「き、期末考査……」
「試験の対象となる科目は"文学"、"算術"、"史学"、"社会学"、"自然科学"、"芸術"の6つ。これらの試験の合計で8割以上の成績を満たせば、合格となります」
「は、8割……」
ふむ、やはりボーダーはそれほど高くない。
全校平均よりは少し上かもしれないが、トップクラスの成績に比べればかなり低い。
これなら、苦手科目だけ少し重点的に勉強しておけば、合格はそう難しくないだろう。
最初に試験を実施すると聞いた時は、どうしようかと思ったが、ルーナと争うわけじゃないし、案外気楽に取り組めそうだな。
そう思って、ホッと胸を撫で下ろしていると、誰かが僕の袖をキュッと掴んだ。
「ルーナ?」
「セ、セレーネ様ぁ……」
ウルウルとした瞳でこちらを見つめるルーナ。
あれ、もしかして、この娘……。
「セレーネ様ぁ!! 勉強教えてください!!!」
涙目のルーナは、全力で僕に頭を下げてきたのだった。
「ふむ、これはなかなか……」
女子学舎の2階にある学習室。
そこで対面した僕とルーナ、そして、たまたま道すがら出会ったルイーザとシュキは、ルーナがこれまでに受けてきたテストの答案を見て、半ば絶句していた。
「平民……。いくらなんでも、これはひどすぎるでしょう……」
12点、42点、18点、14点、17点、6点。
目の前に並ぶ各教科の点数は、なかなかどうして平均を大きく下回る数値だった。
アルビオン学園では、学業に力を入れている生徒と入れていない生徒で、天と地ほどの学力の差があるが、ルーナのそれは、地の方の生徒の中でも、さらに下の下と言ってもよいレベルだ。
唯一算術だけは多少なりとも良い点数を取ってはいるが、それでも平均以下であることには変わりない。
「ルーナちゃんが、ここまで成績が悪かったとは……」
「私は知ってましたけど」
よくルーナとつるんでいるシュキは、この散々な成績の事をすでに知っていたらしい。
なんでもそつなくこなすと思っていたルーナだが、勉強だけは苦手だったというわけか。
「うぅ、私の頭じゃ、8割なんてとても……」
あー、完全にビアンキさんと同じ状況だな。
平民であるビアンキさんは、学園入学までに学力の下地がなく、勉強にはかなり苦労したという。
前世で言えば、小学校に通っていなかったのに、いきなり中学校の勉強をさせられるようなもので、それがどれだけのディスアドバンテージかは想像に難くない。
そう言えば、学園に来た頃は学用品の概念すら無かったんだよなぁ、この娘。
算術だけは、実家の店で店番をしていたことから多少はできているが、それ以外は未ださっぱりなようだ。
「どうしましょう。セレーネ様ぁ……!!」
絶望したような表情で泣きついてくるルーナだが、僕は全く不安など感じていなかった。
いやだって、彼女にはヒロイン補正があるし。
今までの試験の事を思い出す。
初めて学んだ剣で2年以上修練を積んできた僕を打ち負かし、乗馬では、素人であるにも関わらず暴れ馬を乗りこなした。
演劇では、普段のキャラとは全く別人のようなクールな顔を見せてくれたし、聖女様の代役を務めた"舞い"だって、少しの練習ですぐに上達してみせた。
勉強だって、今までは必要に迫られていなかったからしてこなかっただけで、真面目にやり始めたら、きっとすぐに習熟してしまうだろう。
「大丈夫ですわ。ルーナちゃんなら、すぐに成績だって上がりますから」
「本当ですか……?」
「ええ、私が教えて差し上げますわ」
今回の試験は競い合いじゃない。
だから、手を取り合って、一緒に試験の合格に向けて邁進するのも、問題はないだろう。
「だったら、私も手伝う。ルーナには演劇の時に散々世話になったしね」
「平民の事はどうでも良いですが、私も期末考査に向けてしっかり勉強しておきたかったところですの。だから、一緒にやってあげても、まあ良いですわよ」
どうやら、シュキとルイーザもルーナに付き合ってくれるようだ。
「一緒に頑張りましょう。ルーナちゃん」
「セレーネ様……みんな……」
感動に打ちひしがれたように、瞳をウルウルとさせるルーナ。
かくして、ルーナの成績アップ大作戦が決行される運びとなったのだった。
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