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207.お兄ちゃん、聖女の代役を務める

 陽が落ちた。

 夜の静寂の中に、大鐘楼を打つ音が染み入るように響き渡る。

 空気を震わすかのようなその音が、波紋の如く、周囲に咲き乱れた白き聖花を波打たせていく。

 力を得たように輝いた白き花々が作り出す神秘的な光の中で、僕らは起き上がった。

 炎のようにゆらりと身体を持ち上げた僕とルーナは、大鐘楼の前で高らかに腕を天へと伸ばす。

 その先にあるのは、紅の月と碧の月だ。

 それぞれの月をその腕で抱きしめるようにすると、僕ら2人はいよいよ"舞い"始めた。

 何度も何度も反復してきた"舞い"は、もう身体に染みついている。

 神聖な儀式を行うという場の高揚感もあってか、僕の身体は驚くほど自然に動いていた。

 右へ左へ。左へ右へ。

 練習の時よりも、より開かれたスペースを大きく使いながら、僕とルーナはそれぞれに舞う。

 身体が軽い。

 周囲がやけにゆっくりに見える。

 踊りながら、咲く花の本数さえも数えてしまえそうだ。

 よくスポーツ選手が極限の集中力に入った時に、ゾーンに入った等と表現することがあるが、今の僕の状態はまさしくそれなのだろう。

 何千……いや何万の人間が、僕とルーナの"舞い"を食い入るように見つめている視線を感じる。

 声は一切ない。

 集中していて聞こえないわけではなく、儀式を見る時の作法なのだろう。

 たくさんの声援を受けながら臨んだ聖女試験とはまったく違う。

 だが、これだけ多くの人に見られているにも関わらず、僕はどこか他人事のように感じていた。

 今はただ、自分の役割をこなすのみ。

 一人でのパートを終え、"舞い"は佳境へと差し掛かる。

 普段の聖女の"舞い"では披露したことがないという、二人でのコンビネーション。

 お互いに手を結びながら、僕らは"舞う"。

 それぞれの儀式装束が風でブワリと広がった。

 きっと見ている人からは、羽根が開いたように見えた事だろう。

 寒風も石畳の冷たさすらも感じない僕が、唯一今強く感じるのは、ルーナの手の温かさのみ。

 その温かさをギュッと抱きしめるようにしながら、僕はルーナと共に"舞い"続けた。

 そして、どれくらい時が経ったのかすらわからなくなったその時、周囲を取り囲む白き花々の光が一層強さを増した。

 いよいよだ。

 聞いていた通り、そのタイミングはやってきた。

 空には寄り添うように並ぶ、紅と碧の月。

 そして、"舞い"により、場は整った。

 今こそ、聖女様の白き力が最大限に高まる時。

 ゆっくりと動きを止めた僕とルーナの前に、一人の老人が現れた。

 豊かな髭を蓄え、純白の祭服を身に纏ったこの人こそ、アルビオンにおいて聖女様の次に権力を持つとされる司教枢機卿様だ。

 そして、彼の手には、真っ白な火を湛える松明が握られていた。

 この白き松明は、聖女様が手づから魔力を注ぎ込んだいわば種火。

 僕とルーナは、恭しく膝をつくと、頭を下げ、手を伸ばす。

 そんな僕らに、司教枢機卿様は丁寧な所作で、白き松明を握らせた。


「聖女様の御力を世界へ」

『承りました』


 寄り添うように二人で一本の松明を握った僕とルーナは、司教枢機卿様に背を向け、ゆっくりと歩き出す。

 そんな僕らの進む先にあるのは、大鐘楼。そして、その前には、大人数人分の幅はある巨大な燭台が鎮座している。

 台座に昇った僕とルーナは、かがり火を持った腕を大きく伸ばすと、燭台へと火を灯した。

 神聖な力の籠もった白き聖火が、巨大な燭台からゆらりと燃え上がり、白い火の粉を夜の闇に溶かす。

 同時に、大鐘楼の鐘が、再び強く鳴り響いた。

 荘厳な鐘の音と共に、白き炎の清廉な温かさが、周囲へと広がっていく。

 白々たる光にその身を照らされながら、僕とルーナは振り返ると、集まった多くの人々へと一礼したのだった。




「ふぅ、これで一仕事終わりましたわね……」


 儀式を終え、地下の控室へと戻った僕は、ようやく人心地ついたように、息を漏らした。

 儀式中はいわゆるトランス状態のようになっていたので感じていなかったが、終わってみると、ドッと疲れが襲って来るようだ。

 それでも、心には確かな達成感が満ち満ちていた。

 ルーナと敵対するのではなく、一つの事をやり遂げたという事実が、なんだか嬉しい。

 出来も悪くはなかったと思うし、聖女様の代わりも、なんとか務められたといったところだろう。


「セレーネ様!!」


 未だ高揚した様子のルーナは、キラキラと輝かせた目をこちらへと向けている。


「私達、やり遂げましたね!!」

「ええ、そうですわね。ルーナちゃん」


 ニッコリと微笑み合いながら、僕らは改めて握手を交わす。

 そんな僕らの様子を見つつ、ルカード様が労うように拍手をしてくれた。

 周りの僧兵達も、同じく敬意を表すが如く、手を打つ。

 そんな周りの人々に、僕ら2人は揃って会釈をした。


「本当に素晴らしかったです。セレーネ様、ルーナ様」

「ルカード様が根気強く練習に付き合って下さったおかげですわ」

「とんでもありません。お二人の頑張り合ってこそです」


 心から感謝するようなルカード様の笑顔を見ていると、頑張って良かったと素直に思えて来るな。

 さて、これで、僕らのやるべきことは終わった。

 あとは……。

 視線を向けた僕に、ルーナも力強く頷いた。

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