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204.お兄ちゃん、聖女様に謁見する

 その部屋は、まるで実妹と会う度に現れるあの空間のように白一色だった。

 白い柱に白い壁。窓一つなく、目立つものと言えば、中央に伸びる深紅の絨毯のみ。

 そして、その先に、それはあった。

 ほんのわずかばかりせり上がった上座。

 そこには、純白のカーテンが掛けられている。

 仄かに光を放つその向こうには、立派な椅子に腰かける小柄な女性のシルエットが浮かんでいた。

 顔も身体も見えないが、間違いない。

 この人が……聖女。


「あっ……」


 ボケっとしてしまっていた僕は、あわてて膝をつく。

 何も考えていなかったが、高貴な人に対面するのだ。

 礼節はきっちりわきまえておかないと。


「お、お初にお目にかかります。セレーネ・ファンネルと申します」

「あなたが、此度の聖女候補ですね」


 本当にビアンキさんと同世代なのか疑いたくなるほどに若い声色。

 だが、その声には、どこか包容力のようなものが感じられる。


「顔を上げて。楽にしてもらって構いません」

「あ、ありがとうございます」


 ゆっくりと顔を上げる。

 シルエット越しでもわかる凛とした佇まい。

 姿は見えずとも、この人こそ本当の聖女様なのだと感じさせられる。


「顔も見せず、申し訳ありません。これもしきたりですので、ご容赦下さい。今日は、私の呼びかけに応じてもらい、感謝しています」

「い、いえ、勿体ないお言葉です」


 そもそもは僕の方が会いたいと言っていたわけで、今回の謁見は双方の願いがかなえられた形だ。

 と、その時だった。

 聖女様が、ゴホゴホと咳をした。


「だ、大丈夫ですか!?」


 反射的に白の魔力を使おうとしてしまったが、そんな僕をカーテン越しに、聖女様が手で制した。


「……大丈夫です。年齢から来るものです。病気などではありませんので」


 安心させるように務めて平静にそう答えた聖女様。

 言葉に嘘はないだろうが、体調が芳しくないのもまた事実のようだ。


「不甲斐ないですね。こんな私の代わりに、"舞い"を務めてもらって、そちらもたいへん感謝しています」

「い、いえ!! むしろ、光栄というか……」


 さすがにビアンキさんとタメの女性に、寒空の中、裸足に薄着で踊らせるわけにもいかないし。


「あ、あの、聖女様は、なぜ私を……?」

「顔を見てみたかったのです」

「顔……ですか?」

「はい。現役の聖女として、次代の聖女になるかもしれない者の顔を」


 心眼でも持っているのだろうか。

 カーテン越しにも関わらず、聖女様はどうやら僕の様子がつぶさにわかるようだった。


「でも、それでしたら、ルーナちゃ……もう一人の聖女候補も一緒でも……」

「もちろん彼女とも面会をする予定です。ですが、一人ずつ会ってみたかったのです。その方が、本心を聴けるでしょう?」


 本心?

 この人は、何を言って……。


「聖女候補、セレーネ・ファンネルよ」

「は、はいっ!!」


 いきなりのビシリとした呼びかけに、僕はビクリとしつつも、背筋を伸ばす。


「あなたに問います。あなたは──"聖女"という存在をどう思っていますか?」


 その問いかけを受けた時、僕はパニックに陥っていた。

 面接で突然想定していなかった質問をされた時のような焦り。

 もしかして、この質問も実は聖女試験の一環なのだろうか。

 様々な考えが浮かぶ中、ふと触れたポケットから、ビアンキさんの手紙の感触が伝わった。

 そうだ。僕は……。

 一度、目を閉じ、大きく息を吸う。

 そして、僕は口を開いた。


「私から見て、聖女という存在は決して偉大なだけのものではありません」


 民の視点で見れば、聖女という存在は、白の国の女王であり、全てを司る者。

 そして、白の魔力により、自分たちを庇護してくれる守護神のような存在だ。


「聖女は絶対に必要な存在だと思います。黒の魔力に直接触れた事のある身だからこそ、それはとても強く感じます。今、この瞬間も、聖女様がいらっしゃらなければ、大陸は黒に染まってしまう」

「ええ、確かにそうね」

「はい。でも、それはあくまで周囲が自分の"利"のために聖女に求めている役割に過ぎないようにも感じます」


 もし、これが抜き打ちの聖女試験の一環だとしたら、ここからは、きっとマイナスの評価をされてしまう内容になるだろう。

 それでも、僕は胸の中に確かに存在するモヤモヤとした気持ちを吐き出さずにはいられなかった。

 ビアンキさんが、僕らに過去の自分たちの事を教えてくれていたからかもしれない。

 聖女様も、きっと同じような悩みを抱えていたはずだ。

 そう考えると、この神性の塊かのような人を前にしても、素直な言葉がこぼれるようだった。


「聖女という存在には、あまりにも自由がないように、私には思えます。聖女様一人が負担を強いることが、本当に正しいのかも……」


 場を静寂が支配した。

 これから聖女を目指そうという者が、こんなことを言うのはやはり問題だっただろうか。

 それでも……。

 僕の言葉に応えるように、やがて、ゆっくりと聖女様は口を開いた。

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