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020.ルカード

「ルカード。お前は、いつも幸せそうな顔をしているね」


 司祭様は、僕を見るといつだってそう言った。


「小鳥のさえずりや小川のせせらぎ、木々のざわめきと頬の通り過ぎる風の匂い。自分を取り巻く全てのものに、安らぎを覚え、幸せに思う君のその心こそ、一番の宝だと私は思うよ」


 そう言ってにっこりと笑う司祭様の顔は、今でもずっと目に焼き付いている。

 でも、同時に、その笑顔を見ると、どうしようもなく胸が痛くなる。

 なぜなら、自分は司祭様が言うように、そんな些細な事に幸せを感じることのできる人間ではなかったからだ。

 笑顔でいること。

 それは、私にとって、ただの処世術の一つだった。

 幼い頃に両親を亡くし、教会の運営する孤児院へと預けられた私は、そこで身を粉にして働いた。

 子どもといっても、後見人もいないただの孤児だ。

 庇護されるだけの存在にはなりたくなかった私は、できる仕事ならなんでもやった。

 私は、不必要な人間にはなりたくなかった。

 大人に必要とされる良い子でありたかった。

 だから、どんなに辛い仕事も、"笑顔"で引き受けた。

 やがて、12歳になり、私に魔力の素養があり、神官になれる資質があるとわかってからは、なお一層の事だ。

 私は、ただただ、必死に求められる自分を演じ続けてきた。

 笑顔は、そんな私が着けたペルソナに過ぎない。 

 神官見習いとしての修練が終わり、巡回神父として、碧の国を回り始めてからもそうだ。

 人々に笑顔で教えを説く敬虔な神父。

 そんな自分を演じながら、神官としての務めと修練に励み続けた。

 誰にも弱さを見せたつもりはない。

 いつも笑顔。必死さは胸の中だけに閉まって、ただただ私は邁進してきたつもりだった。

 だが、彼女は……セレーネ様だけは、そんな私の心に気づいた。

 ずっと隠していた、笑顔の下のその姿に……。

 彼女の膝の上で空を見上げた時、私は確かについぞ感じたことのない"幸せ"を感じていた。

 空の青が、木々の緑が、いつもより鮮やかに見えた。

 ただ、横になっただけなのに、まるで、それは魔法のようだった。

 そして、本当の聖女様のように、私を見下ろす柔らかな笑顔を見た瞬間、私は、これまでの人生で感じたことがない充足感を感じていたのだ。

 聖女候補とはいえ、自分よりも5歳も年下の年端もいかない少女の笑顔。

 それは、もう顔も思い出せない母の温かみそのものだった。

 知らず、知らずのうちに、私は眠りについていた。

 こんなに穏やかな気持ちで眠ったのは、いつぶりだっただろうか。

 目覚めた時、すでに陽は落ちかけていた。

 頭には、柔らかな感触。

 随分長い間、寝てしまっていたにも関わらず、彼女は、ずっと私を抱いていてくれていたらしい。

 いつの間にか、自身も寝てしまったセレーネ様を起こさぬように、今度は私が支える。

 軽い。

 細く、小さな身体を支えるにつけ、年相応の幼さを見せつけられるにつれ、私の胸には何とも言えない感情が芽生えていた。

 彼女はいったい何なのだろうか。

 自分にとって、どんな存在なのだろうか。

 ただ一つ、言えることは……。


「貴女は、きっと聖女になるべき人だ」


 自分の中で、すでに確信があった。

 セレーネ様は、きっと聖女になるお方だ。

 だから、私がずっと支え続けよう。

 白の国の神官として。いや……。


「何を考えているのでしょうか。私は……」


 ぶんぶんと頭に浮かんだ妄想を振り払うようにして、私は暮れなずむ夕日を横目に、セレーネ様を抱いて、屋敷への道を歩き始めたのだった。

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