199.お兄ちゃん、神官に癒される
「セレーネ様、根を詰めるのも身体に毒です。今日はこの辺りにしておきましょう」
「はい、そうさせていただきますわ」
実際、気づかぬうちに身体が疲れ切っていた。
午前は雪遊びに興じ、午後はずっと"舞い"の練習をしていたのだから、当然と言えば当然か。
練習を続けるにしても、ルカード様の時間も奪ってしまうことになるし、ここらが終わり時だろう。
そう考え、そのまま歩き出そうとしたら、ガクリとまた膝が折れそうになった。
「少し休憩してから、戻られた方が宜しいようですね」
「そ、そのようです……」
ルカード様に肩を借りるようにして、僕は部屋の壁際に腰を下ろす。
「ふぅ、足がパンパンですわ……」
座り込んで、改めて足が相当に疲労しているのに気づく。
乳酸溜まってそうだなぁ。
儀式は裸足で行うので、練習時から慣れない裸足で踊っていたのも疲労に拍車をかけていた。
ちょっと行儀が悪いが、真っすぐに足を伸ばすと、少しばかり楽になる。
「本当にお疲れ様です。無理にお願いしたにも関わらず、ここまで熱心に練習していただいて」
「国を挙げての行事ですもの。手を抜くわけには参りませんわ」
実際、現役の聖女様の代わりを務めることになるわけで、それだけ国民の目も厳しいものになるのは必至だ。
その上、一緒にやるルーナよりもあからさまに劣った"舞い"なんて披露したら、どれだけ叩かれるかわかったもんじゃない。
そんなことを考えていると、ルカード様が、おもむろに僕の傍らで片膝をついた。
「えっと……ルカード様?」
「少し触れても?」
「え、あ、はい」
反射的に肯定してしまったが、どういう意味だ?
一瞬僕が呆けていると、ルカード様がおもむろに僕の足首辺りに触れた。
少し冷たい手の感触が、電気のように僕の背筋まで伝わる。
え、え、何? どういうこと?
いや、触れるって、そういう……!?
変な方向に思考が走りそうになっていた僕だったが、すぐにそれがあらぬ誤解だったと気づく。
ルカード様は、ゆっくりと僕の脚をほぐし始めたのだ。
その手つきは、僕を労わるような優しいもので……。
「ル、ルカード様!! 神官様にそんなことをしていただくわけには……!!」
「構いません。いえ、むしろさせていただきたい。ずっと頑張って下さっているセレーネ様を少しでも労わりたいのです。それに……」
ルカード様は、少しだけ照れたように苦笑する。
「いつも、セレーネ様には、私の方が癒していただいてばかりですから」
「あっ……」
その言葉に、今までのルカード様との出来事が色々と蘇って来る。
膝枕したり、膝枕したり、膝枕したり……。
冷静に考えてみると、僕って、かなり恥ずかしいことしてるのでは……。
「そ、そういうことでしたら……」
断るのも憚られて、されるがままに足を投げ出す。
いや、しかし……。
自然と顔がほころんでくる。
何これ、ちょっと……めちゃくちゃ気持ち良いんだけど……。
「ル、ルカード様、何かこういうお仕事とか昔されてました……?」
「仕事というわけではありませんが、孤児院にいた頃から、度々大人の方に頼まれて按摩をしていたものですから」
「な、なるほど……」
だから、こんなに上手なわけね。
言われてみれば、なんだか年季が入った手つきにも感じる。
「ふくらはぎは随分解れてきましたね。少し上に行きます」
そのままルカード様の手がふとももに触れる。
「……んっ……」
瞬間、あまりの気持ち良さに、変な声が出た。
思わず口元を押さえる僕。
い、今の声はちょっと……。
妙に色っぽくなってしまった声を聞いて、さすがにルカード様も一瞬動きが止まった。
「セ、セレーネ様、痛かったですか……?」
「い、いえ、とても気持ち良いですよ!!」
気持ち良すぎて、ちょい艶めかしい声出ちゃうくらいには!!
「良かったです。続けます」
「は、はい……」
そうして、何事も無かったかのようにマッサージを再開するルカード様。
けど、やっぱりこれ……ちょっと気持ち良すぎるんだわ。
さっきのふくらはぎもめちゃくちゃ気持ち良かったけど、ふともものそれはもっと凄い。
どうやら、僕はふとももが凝りやすいタイプのようだ。
特に、グゥーと指圧されるのに弱い。
こ、声出るぅ……気持ち良いけど……気持ち良いけど……誰か助けてぇ!!
これまで経験したことがないような天国と地獄を味わいつつも、僕とルカード様の二人だけの時間は過ぎていったのだった。
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