196.お兄ちゃん、雪合戦をする
そんなわけで、双方が30メートルほどの距離を取って、僕らは対峙した。
「準備は良いですね!」
「ええ、構いませんわ!!」
「では、よーい……スタート!!」
審判も務めるルーナの掛け声で、いよいよ雪合戦がスタートした。
久々の雪遊びで、正直僕も少しテンションが上がっている。
果敢に攻めに行きたいところだが、プリンセスである僕が被弾すれば、こちらのチームの負けになってしまう。
あまり積極的に攻めるわけにはいかないな。
と、とりあえずはその場に留まった僕の横で、アミールがそそくさと雪玉を両手に持つと、さっそく相手チームの方へと駆け出そうとしていた。
「速攻だ。電撃作戦で行くぞ!!」
「待ちなさいよ!! いきなり行っても、良い的になるじゃない!!」
そんな勢い勇んだアミールを止めたのはシュキ。
「雑木林もあるんだ! 上手く盾として使えば、的にはならない!!」
「無理ですって!! 1人で行っても、雪玉を投げ終えたら、死に体になるじゃない」
「じゃあ、攻めずに勝てるのか?」
「極論すぎ。まずは、たくさん雪玉を作って──」
2人が作戦で揉めている間にも、雑木林の隙間に、細身のシルエットがチラリと見えた。
はっきりとは見えなかったが、一瞬見えたあのおみ足は、アニエス?
明らかに紅の魔力を使っているらしい彼女は、木々の間を縫うようにして、こちらへと接近してくる。
かと思えば、一瞬後、かなりの力で投擲されたであろう雪玉が飛来した。
「うわっ!?」
いきなりの不意打ちのような攻撃。
驚いて、回避行動すら取れなかった僕の前に、レオンハルトが進み出た。
そして、飛来した複数の雪玉を腕の一振りで薙ぎ払う。
「肘から先なら、当たっても良いんだったな」
「レオンハルト様……。ありがとうございます!!」
宣言通り、さっそく僕の事を護ってくれたレオンハルト。
さすが有言実行の男。なんという心強さだ。
それにしても、アニエスのやつ、本気だな……。
と、考えている間にも、今度は違う方向から雪玉が迫りくる。
今度の雪玉は、先ほどよりも数が多い。
それに凄いスピードだ。まるで、風に後押しでもされているかのような……。
「って、フィン!!」
雑木林の隙間から見える、見慣れた金髪は間違いなくフィンのもの。
そして、こちらに手を掲げた彼は、明らかに碧の魔力を使っていた。
得意とする風魔法。どうやら、彼はそれを使って、こちらへと一気に雪玉をぶつけるつもりらしい。
いや、アニエスもフィンも遊びに魔法使うって……。
ってか、アニエス、さっきは所詮遊戯って言ってたよね!!
足場の悪い雪上だ。さすがにレオンハルトでもこの数は、と思った刹那、次に前に出たのはルカード様だった。
おもむろに迫りくる大量の雪玉に手をかざしたルカード様の身体から、翠色の魔力が迸る。
「障壁」
ボソリと呟いたかと思うと、薄っすらと発光する壁のようなものが生み出され、雪玉の進行はそれらに見事阻まれた。
「ルカード様、凄い……!!」
神官だけが操ると言われる翠の魔力。こんなこともできるのか。
「相手もなかなかやる気だな」
「ええ、レオンハルト様。防御は任されましたので、是非攻めを」
「わかった。ルカード先生。セレーネを頼む」
「だから、そういうところが、情緒がねえってんだよ。お前の脚本にはよぉ!」
「あなたの考えるお話こそ、頭ハッピーな行動原理の人ばかりで、深みが無いんです。だいたい──」
いつの間に口喧嘩になっているアミールとシュキの間を抜けて、レオンハルトが相手チームへと駆け出して行く。
そうしている間にも、アニエスとフィンの波状攻撃が迫るが、その全てをルカード様が魔法で防ぎ切った。
やっぱ、魔法の力って凄いなぁ。
とりあえず、防御は盤石みたいだし、僕も雪玉くらいは作って、応戦しないと。
「ふふっ」
そそくさと雪玉を作っていると、ルカード様の口からそんな声が漏れたのが聞こえた。
「ルカード様?」
「ああ、いえ、失礼しました」
口ではそう言いながらも、ルカード様の顔は笑顔のままだ。
その笑顔は、普段のどこか義務的なものが感じられる笑顔ではなく、本当にこの時間を楽しんでいるのが感じられるような自然なものだった。
「楽しいものですね。みんなで遊ぶ、というのは」
ルカード様は、元々孤児だった。
その上、幼い頃からずっと働いていたというから、こうやってたくさんの人と一緒に遊んだ経験というのは無かったのかもしれない。
彼の境遇を思うと、今こうやって楽しそうに雪合戦に興じているのを見ていると、僕もなんだか温かい気持ちになってくる。
思いつきではあったけど、彼にも参加してもらって良かった。
「さあ、ルカード様。守るだけじゃなく、私達も攻めましょう!」
僕は作り置きした雪玉をルカード様へと手渡す。
「ええ、頑張ります!!」
雪玉を受け取りつつ、ルカード様はまるで少年のように無垢な笑顔を浮かべたのだった。
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