195.お兄ちゃん、ご褒美を決める
さて、場所は学園内にある雑木林の一角。
第1試験の際には、トレーニングに使わせてもらっていたこの場所には、今おおよそ僕の膝くらいまでの雪が降り積もっている。
青々とした快晴の空の下、集まったメンバーは総勢10名。
僕ことセレーネ・ファンネルに、ヒロインであるルーナ。
そして、攻略対象であるイケメン達5名。
加えて、メイド騎士アニエス、演劇部部長シュキ、米作り名人ルイーザだ。
何気に、これだけのメンバーが揃うのは初めてだな。
ゲーム内で登場する主要人物の多くが集まる今、ルーナはその中心に立つと、大きな声で宣言をした。
「雪遊びと言えば、やっぱり雪合戦です!! 皆さん、雪合戦をしましょう!!」
ふむ、ベタだが、この人数でやるとなれば、やはりそれだな。
「チーム分けをします!! 男女でまずは3対2に分かれましょう!!」
そんなわけで、女子5人で集まる僕ら。
平民のルーナは、故郷の村の遊びで慣れているのか、まずは分かれ方を説明してくれる。
まあ、前世の小学校でアホほどやっていたので、僕はグッパーくらい知ってるけどもね。
とはいえ、王子たちはこんな風に遊ぶのは初めてなのか、庶民の子どもの遊び方に興味津々といった様子だ。
そうして分かれた結果、ちょうど僕とルーナが別々のチームになり、それぞれのリーダーということになった。
「ふふっ、ルーナちゃん、聖女試験ではありませんが、正々堂々戦いましょうね」
「はい、セレーネ様!! 絶対に負けませんよ!!」
聖女候補2人の後ろには、それぞれのメンバーが控える。
僕のチームが、レオンハルト、アミール、シュキ、ルカード様。
ルーナのチームが、ルイーザ、アニエス、フィン、エリアスだ。
「な、なぜ、私がセレーネ様と別のチームなんですのぉー!!」
「セレーネ様がグーで、ルイーザちゃんがパーだったからだよ」
「そんなことわかってます!! ああ女神様、なぜセレーネ様と戦うなどという試練を与えられたのです……。うぅ……」
「はぁ、姉様と違うチームかぁ……」
「フィン様。これは所詮遊戯ですので、そこまで気落ちしなくとも」
「なあ、ルーナの嬢ちゃん」
「なんですか? アミール様」
「遊びとはいえ、何かご褒美がなきゃ張り合いがねぇと思わないか?」
「ご褒美……ですか?」
なんだ。アミールのやつ、何を言い出すつもりだ。
「このゲーム、リーダー──つまりプリンセスが雪玉に当たったら、負けってルールだったよな」
「はい、そうです!」
「だったら、相手のプリンセスに雪玉をぶつけた勇者には、何かご褒美があってもいいだろ? 例えば、自分のチームのプリンセスからなんでも願い事を聴いてもらえる、とかな」
ふむ、まあ、遊びには罰ゲームやご褒美が付き物だし、そういうのがあってもいいとは思うが、何で自分のチームのリーダー?
そこは普通さ。負けたチームのメンバーに尻字で自分の名前書いてもらうとかさ。そういうのでいいじゃん。
いや、ルーナだったら、嬉々として自分からお尻振りそうだけどさ。
「ちょ、ちょっと待って下さい。アミール様!!」
と、話に割り込んできたのは、フィン。
「それって、そちらのチームは勝った場合、姉様になんでも願い事を聴いてもらえるということですよね……!?」
「ああ、そういうこったな」
悪びれずに、シレっと言うアミール。
フィンは憤ったように拳を握り、プルプルと震えている。
やっぱり、おかしいよなぁ。
普通は、負けた方のチームに何かしてもらうものだもんな。
「……ずるい」
ん?
「アミール様!! それはずるいです!! そちらのチームの方だけしか、姉様からお願い事を聴いてもらえないなんて!!」
おやおや、フィン君。なんだかちょっとばかし主張がずれてやしないかい?
「お前らだって、勝ったらルーナの嬢ちゃんになんでも言う事聴いてもらえるじゃねぇか」
「それはそうですが……」
「平民にお願いしたいことなど何もありませんわ!!」
フィンに助け舟を出すように叫んだのはルイーザ。
何気にひどいこと言ったなぁ、おい。
「やはり不公平ですわ!! 断固認められません!!」
「そうですね。アミール様の魂胆は見え見えですし」
さらにはエリアスもアミールへの反論を始めた。
「公平を期すためにも、"願いを伝えるのは、どちらのチームのプリンセスでも良い"。それでいかがでしょうか?」
「ああ、エリアス。それでいいぜ」
ニヤリと笑うアミール。
同じくエリアスもかすかに笑みを浮かべているようにも見える。
あっ、これ、もしかして、この二人最初から……。
「では、ご褒美も決まった事ですし!! 始めましょう!!」
ひとかけらの疑問も抱かず、ルーナが早く早くとばかりに宣言した。
むぅ、なんだかアミールとエリアスに微妙に誘導された感が否めないが、もはや確定したような空気感の中で、今更嫌だというのもちょっと気が引ける。
まあ、所詮はお遊びの上でのことだし、みんなそんな無理なお願いとかはしな──はっ!?
そこで、気づいた。
なんだか、妙に自分に視線が集まっていることに。
「あの、皆様……」
声を出すと、全員がわざとらしく視線を逸らす。
「さーて、軽く捻ってやるとするかー」
「作戦を立てなければですね」
「セレーネ様にお願い事……でゅふ」
「ぼ、僕は別に……」
なんだろう。
この皆それぞれ何かしら腹に一物ある感じの雰囲気は……。
どことなく邪な何かを感じていると、それを不安と感じ取ったらしいレオンハルトが僕の頭をポンポンと叩いた。
「大丈夫だ。セレーネ。俺が守ってやる」
「レオンハルト様……」
キュン……って、言ってる場合じゃない。
なんかみんな、レオンハルトの事睨んでない……?
「ふふっ、童心に返ったようです」
そんな雰囲気など一切感じ取ることなく、ルカード様はニコニコと普段通りの笑顔を浮かべている。
うん、なんか色々不安になってきたわ。
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