194.お兄ちゃん、温かい格好をする
さて、そんなこんなで、休園になった今日。
暇を持て余した面々が、ルーナを中心に集められていた。
「うぅ、寒いのは苦手なんだけど……」
肩を抱きながら、ぼやくのはシュキ。
普段は脚本を書いてばかりで、どちらかと言えばインドア派な彼女は寒さ耐性が低いらしく、ブルブルとシバリングしていた。
「んだよ。情けねぇな。演劇部部長」
と、その隣にはアミール。
砂漠の国出身の彼も、積雪には地味にテンションが上がったらしく、雪の上で笛を吹いているところにたまたま遭遇した。
出会った時も風光明媚な渚で演奏していたし、彼の中で笛を吹くロケーションっていうのは、やはり大事らしい。
「お前、ガリガリだからな。もうちょい肉付けろ、肉」
「うるさいですね。私は、小食なんですよ」
「とりあえず上着貸してやるから。着てろ」
「え、あ、べ、別にいいですから……」
なんだかんだ、口は悪いが女子には優しいアミールと素直に厚意を受け取れないシュキ。
ん-、なんかちょっと良い感じじゃない?
「私なんかよりも、セレーネ様に貸してあげればいいでしょう」
「あー、俺もそうしたいのは山々なんだが……」
二人の視線が僕へと向く。
「あれだけ防寒してりゃ、もう必要ないだろ」
「……確かに」
そう。僕はフィンがいつの間にか用意していたモフモフのパーカーを着ていた。
猫耳のようなフードがついているのが特徴で、とても可愛らしい。
長靴やら手袋なんかも装着済みで、防寒は完璧といったところだ。
「姉様! かわ……最高に似合ってるよ!!」
「ええ、よくお似合いです」
猫耳フード付きパーカーを来た僕を見て、どこか興奮したように両手を叩いている身内2人組。
うん、アニエスは距離感完璧に戻ったね。
いや、それは良いとして、フィンもアニエスも絶対僕を着せ替え人形にして、楽しんでるよね。
「なんだ。みんな厚着だな」
そんな僕の横には、この後に及んでチュニック1枚のレオンハルト。
こんな雪の日にも関わらず、今日も彼はこの姿で朝トレに励んでいた。
真冬でも半袖短パンで登校してくる男子小学生のような雰囲気……。
風邪とか体調不良とか、この筋肉王子には縁が無さそうだな。
そして、そんなレオンハルトとは対照的にしっかり防寒した上で、なおかつシャムシールのモフモフの毛を抱くようにしているエリアス。
冬毛のシャムシールの毛はかなり温かそうだなぁ。
あとで、僕もモフらせてもらわないと。
「そ、錚々たる顔ぶれですわね……」
と、たまたま集まれてしまったメンバーを見回しつつ、ルイーザが圧倒されていた。
それぞれと面識がないわけではないものの、レオンハルトまで含めて、こうやって一堂に会するのは、彼女にとっては初めてだもんな。
王子様3人に公爵家の長女と長男が揃っているとなれば、家格的にルイーザが一歩引いてしまうのは致し方ない。
もっとも、普段からアミールをライバル視しているシュキや、そもそも身分をあんまり意識していない節のあるルーナはケロリとしているが。
「いや、でも、よく揃いましたわね。本当に」
これで、ルカード様もいれば、攻略対象コンプリートできてしまうな。
と、そんなことを考えていたら……。
「セレーネ様、こちらにいらしたのですね」
「えっ、ルカード様!?」
なんと当人がやってきた。
比較的雪の解けた歩道の方から、えっちらおっちらこちらへと歩いてくると、ルカード様ははぁ、と白い息を吐いた。
「おはようございます。セレーネ様、ルーナ様」
「お、おはようございます。ルカード様。こんな朝から、どうかされましたか?」
「いえ、今日はこのような状況ですので、"舞い"の稽古はお休みにしようと思いまして」
「えっと……。もしかして、それをわざわざ伝えに来て下さったんですの?」
「はい」
ニッコリと微笑みながら、そう答えるルカード様。
それを伝えるためだけに、除雪もろくにされていない中をわざわざ教会から歩いて知らせに来てくれたのか。
相変わらず、こちらが心配になるほど律儀な人だわ。
「ルーナ様も、ご承知おきください」
「わかりましたー!!」
「さて、では、私はこれで……」
「あっ……!」
一礼して、帰り道を行こうとするルカード様の手を僕は反射的に掴む。
「セレーネ様?」
「あ、いえ、その、せっかく来られたのですし、ルカード様もご一緒に、雪遊びなど……」
言ってから大人の男性に対して何言ってんだ、と思わないでもなかったが、こんな機会は滅多にないし。
何より、せっかく学園まで来てくれたのに、連絡だけしてとんぼ返りなんて、あまりにも勿体ない。
「いや、しかし……」
「今日もお仕事でお忙しかったり?」
「そういうわけではありませんが……」
学園がお休みになったわけだし、ルカード様も今日は授業をしなくてもよいはず。
まあ、彼の事だから、この機会にやるべき仕事なんかもあるかもしれないけど。
ルカード様は、しばし熟考するように手を顎の辺りに添えていたが、やがて僕へと向き直ると、笑顔で頷いた。
「わかりました。たまには生徒達と交流を深めるのも、教師の務めですので」
「わぁ、ルカード様もご一緒できるんですね!! 嬉しいです!!」
こうして、なんだかんだとゲームに関わるほとんどのキャラクターが揃った中、僕らは雪遊びに興じることになったのだった。
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