193.お兄ちゃん、銀世界に驚く
その日はやけに暗かった。
寮で目を覚ました僕は、最初、起きる時間を間違えたかと思った。
まだ、日が出ていないと思ったのだ。
だが、わずかばかり窓から光が漏れているのに気づいて、おもむろに毛布から這い出た僕は、カーテンを勢いよくめくった。
びっしりと窓に張り付いたこれは……雪?
強引に窓を開けると、張り付いていた霜のように固まった雪がビキビキと剥がれ落ちて行く。
そして……。
「うわぁ……」
思わず、声が漏れた。
昨晩、帰り道にも降っていた粉雪。
どうやら、一晩中降り続いたらしきその雪は、すっかりと周囲の風景を様変わりさせていた。
おおよそ僕の膝くらいまでは積雪しているかもしれない。
この世界に来て、初めて見る一面の雪景色に、僕のテンションは自然と上がっていた。
「これは、ルーナあたりはさっそく雪だるまでも作っているかもしれないな」
頭の中で、幼子のように雪の上を転げ回るルーナを想像すると、クスリと笑えた。
と、そんな時、突然窓のすぐ外に大量の雪が降り注いだ。
何事かと身を乗り出し、見上げると、純白の……いや。
「アニエス!?」
「お嬢様、おはようございます」
いつものメイド服姿に、スコップを持ったアニエスは、僕に気づくと手を止めて一礼する。
場所は屋根の上だ。
どうやら、彼女はさっそく雪かきをしてくれていたらしい。
「高いところから失礼して申し訳ありません」
「いえ、早くからご苦労さ……くちゅん!!」
そこまで言ったところで、寒さから思わずくしゃみをしてしまった。
いかん。まだ寝間着のままだった。
「お嬢様。すぐ着替えとお食事のご用意を!!」
「ゆっくりで大丈夫ですわよ」
ずびびー、と鼻水を啜ると、僕は窓を閉じる。
白の国でも、ここまで雪が積もることは稀だろう。
もしかしたら、今日は学園も休みになるかもしれないな。
そんな僕の予想は的中し、学園は休園ということになった。
「ふぅー、思いがけず時間ができてしまいましたわね……」
アニエスが煎れてくれた温かいお茶を飲みながら、僕は今日1日どうしようか考える。
この分だと、教会に行くにしても、まだ除雪がろくにされていない状況だろう。
移動も一苦労だろうし、おとなしく部屋で昨日習った"舞い"の練習でもするかなぁ。
そんな風に思っていると、誰かが窓枠をトントンと叩く音が聞こえた。
ん、アニエスはもう部屋にいるし、いったい誰だろうか……?
「セレーネ様ぁー!! おはようございます!!!」
「ルーナ?」
その声はまごうことなくルーナのものだ。
慌てて、窓を開けると、そこには鼻を真っ赤にしたルーナと、そのルーナに手を引かれるようにしたルイーザが立っていた。
「あなた達……」
「セ、セレーネ様、申し訳ありません! 休園だというのに……」
「セレーネ様、セレーネ様!! 見ましたか!! この雪!!!」
目をキラキラと輝かせながら、風景へと視線を促すように手を広げるルーナ。
まだ、朝だというのに、とんでもなくテンションが高い。さっき想像していた通りだな。
「え、ええ、先ほど拝見しました」
「凄いですよね!! 私、こんなに雪が積もっているところを見るのは初めてです!!!」
あー、そう言えば、ルーナが住んでいた紅の国西岸辺りはここまで寒くないらしいからな。
昨晩のようにチラチラ舞う雪くらいは見たことがあるかもしれないが、ここまで降り積もった様子を見るのは初めてなのだろう。
考えてみれば、僕も実家では、ここまで積もったところは見た事ないな。
前世では、ちらほら県をまたいでスキーなんかに行ったこともあるから、それほど珍しくは感じないけど。
「確かに、こんな機会めったにありませんわね」
「でしょう!! だから、セレーネ様!!」
ルーナはこれ以上ないくらいにっこりした笑顔で言った。
「みんなで雪遊びをしましょう!!」
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