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189.お兄ちゃん、怪しい人物を捕まえる

「遅くなりましたー!!」


 儀式装束の再フィッティングを終えたルーナが、元気よく白の教会から出てきた。


「お待たせしてごめんなさい!! 思ったよりも、時間がかかってしまって!!」

「いえ、ちょうど良かったですわ」


 アニエスはすっかり落ち着いて、僕の隣でいつも通りの無表情を貫いている。

 さっきまで、すすり泣いていたなんて、ルーナはきっとこれっぽっちも思わないだろうな。

 と、そんな事を考えていると、サーっと冷たい風がその場を吹き抜けた。


「寒っ……!」

「この分だと、明日は積もるかもしれませんわね」


 少しずつ大きさを増す粉雪を手の平に乗せるようにして、僕は呟く。


「さっ、早く学園に戻るとしましょう」

「はい!!」


 そうして、3人で、学園への道を戻ろうとしたその時だった。


「あれ、あの人……」


 ルーナが見つけたのは、路地の隙間に立つ1人の女性だった。

 赤ずきんのような真っ赤なフードを目深にかぶった女性で、歳はわからない。

 手に大きなバスケットを提げた彼女は、周りをきょろきょろと確認すると、視線を上へと向けた。

 その視線の先にあったのは、聖女様が住まうとされている白の聖塔と呼ばれる建物。

 教会の上部に伸びる3本の塔の中でも、最も高いその塔から、聖女様は人々の安寧のために、日々祈りを捧げてくださっているという。

 白の国の中でも、特に目立つ建物なので、そこに目が行くのはわからないでもない。

 だが、こんな夜更けに、雪さえ降り始めた寒空の下で、ジッと見つめているというのは、少し様子がおかしいように思えた。


「もしかして……」


 紅の国での一件が、僕の脳裏によぎる。

 邪教徒の暗躍。

 それが、常日頃から水面下で行われていたという事実を僕はもう知っている。

 浄化の力の強い白の国には、邪教徒は入れないという話も聞いてはいるが、抜け道だってあるかもしれない。

 とすれば、あの女性も、もしかしたら、聖女の命を狙う邪教徒の一人という可能性だって無くはない。

 例えば、あのバスケットの中には、爆弾か何かが入っているとか……。

 僕はアニエスと視線を交わす。

 どうやら、彼女も赤いフードの女性に、怪しいものを感じたらしい。

 コクリと頷くと、彼女へとゆっくりと近づいていった。


「もし、そこのご婦人」


 努めて平静に声をかけたように見えたアニエスだったが、その姿に気づいた女性はビクリと震えた。

 そして、こちらへと背を向け、駆け出す。


「あっ!!」


 やはり、この人……!!

 瞬間、アニエスが紅の魔力を身に纏う。

 一瞬で加速した彼女は、すぐに女性の前へと回り込んだ。


「止まりなさい!!」

「ひぃっ!?」


 いきなり前へと現れたアニエスに驚いたのか、女性はぬかるんだ地面に足を取られて、豪快にすっころんだ。

 同時に頭にかぶっていたフードがふわりと外れる。

 その素顔は……どう見ても普通の中年女性だった。

 あれ、もしかして、僕達、とんでもない勘違いでえらいことしちゃってる……?


「だ、大丈夫ですか?」


 まだ、邪教徒の可能性が無くなったわけではないので、少し離れた場所から声をかけると、女性は腰を打ったのか、痛そうにさすりながら、なんとか身体を持ち上げた。


「あいたたた……。まったくなんなんだい……」


 そう言って嘆く姿には、邪教徒的なところは一切なく、当然、黒の瘴気なんかも纏っていない。

 うん、間違いなく、この人、一般人だわ。


「すみません! 少し勘違いしてしまいまして!!」


 アニエスも女性の殺気の無さに、白だと判断したようで、困惑したようにおろおろしている。


「はぁ~、まったく……。腰が痛くて動けやしない」

「あ、だったら、私が……」


 一般の人の前で白の魔力を使うのは推奨できる行為ではないが、こちらの勘違いで怪我させてしまったわけだしな。

 そう思い、おもむろに歌を紡ごうとしたその時だった。


「はぁ、こりゃ仕方ないね」


 女性はやれやれと言った表情を浮かべると、自身の腰をさするようにしながら──


「我の心の内に眠りし、偉大なる白の深淵よ。今ここに、その力を示したまえ」


 どこか荘厳な呪文のようなものを彼女が唱えたと思った瞬間、"白の魔力"がその身を包み込んだ。


「えっ……?」

「ふぅ、これで、立ち上がれそうだわ。悪いけど、手を貸してくれるかい」

「は、はい……」


 呆然としつつも、僕が差し出した手を取った彼女は、立ち上がると、濡れそぼった背中に不快感を覚えたようにブルリと震えた。


「あぁ、下着までびっしょりだね。こりゃ……」

「あなたは……いったい……?」

「ん? ああ、あたいはビアンキ。ただのしがない平民さね」

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