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187.お兄ちゃん、稽古をする

「い、意外と大胆な衣装なのですわね……」


 教会までやってきた僕とルーナが、まず、させられたのは"舞い"で着用する衣装のサイズ確認だった。

 白の聖女のイメージにたがわぬ純白の儀式装束。

 ひらひらとしたスカートはくるぶしに届くほど長く、上もポンチョのような構造になっているので一見すると露出度は低めのように思えるのだが、何を思ったのか中はノースリーブだ。

 特に脇の辺りが非常に広く開いており、ここだけ見ると結構際どい。布地もわりと薄いし。

 伝統的な衣装なので、仕方ないんだろうけど、真冬の寒空の下でこれ着て踊るって……。

 むしろ、現役の聖女様、よくそんな年齢まで頑張ってきたなぁ、と感心してしまうね。


「セレーネ様、よくお似合いです」


 着替えを手伝ってくれている女僧兵が、嬉しそうに手を叩く。

 目の前の大鏡に移った自分の姿は……うん、めっちゃ似合ってるよ。

 こうやって見ると、本当の聖女様と言われてもしっくり来てしまいそうだ。

 ほんと、見てくれだけは良いよなぁ、セレーネって。

 もっとも、本番は、顔がわからないように厚手のベールをかぶるらしいから、この格好を丸々披露するわけじゃないけど。

 はぁ、どうせだったら、レオンハルト達にも、ベールをかぶっていない姿を見て欲しかったなぁ……。

 …………………。

 ごめん。今の無し。

 

「サイズもピッタリでございますね。ルーナ様は……少し詰めた方が宜しいようで」

「あ、はい、結構ぶかぶかかもです」


 そう言いつつ、ゆるゆるの胸元の余り布を指でひっぱるルーナから、僕は思わず目を背ける。

 女の子しかいないとはいえ、相変わらず無防備だなぁ、この娘は……。

 こういうどこか子どもっぽいところが、男子に誘われない所以なのだろうか。

 いや、でも、実際のゲームでは、モテにモテていたはずなんだが……。


「"舞い"のお稽古が終わるまでに、衣装を詰めておきますので、後程改めて確認させて下さい」

「はい! ありがとうございます!!」


 そんなわけで、衣装合わせも終わったところで、いよいよ"舞い"の練習だ。

 アルビオン聖教の総本山である"白の教会"のとある一室へと通された僕らの前には、普段通りの笑顔を浮かべるルカード様がいた。


「あれ、ルカード様が教えて下さるんですか?」

「いえ、自分には"舞い"なんて、とてもできません」

「えっ、だったら、誰が……」

「先生は、"彼女達"ですよ」


 ルカード様がスタスタと歩いていく先には、椅子に座るように置かれている2体の人形があった。

 大きさは、僕らの身長のおおよそ半分くらい。

 見た目はまさにマネキンといったところで、のっぺらぼうの顔に、何にも余計なものがついていないつるつるの肌をしている。

 唯一、目立つのは、ウ〇トラマンのカラータイマーのように胸に光る宝玉だ。

 ルカード様はその宝玉に触れると、自身の魔力を籠めた。

 すると……。


「うわっ、動きました!!?」


 ルーナが思わず驚きの声を上げる。

 つるつるボディの2体の人形は、胸の光玉を翡翠色に光らせつつ、滑らかにその場でクルクルと回った。

 ひとしきり回転すると、2体はまるで示し合わせていたかのように、手を取り合って、ビシッとポーズを決めた。

 僕とルーナは、その姿に思わず拍手を送る。


「代々、聖女様に"舞い"を指導してきた魔導人形です」

「凄いです!! こんなの初めて見ました!!」

「なるほど、この2体の人形が、私達の先生というわけですわね」


 人形は、会釈をするように首を垂れる。

 会話はできないようだが、こちらの言葉はある程度伝わるらしい。


「聖燭祭まで時間がありません。さっそくですが、練習を始めましょう」

『はい!!』


 こうして、始まった僕らの"舞い"のお稽古。

 社交界のために学んだバロックダンスとは違って、儀式用の"舞い"は、どこか前衛芸術的な要素があり、なかなか感覚を掴むのが難しかった。

 柔軟性を試されるようなポーズもあったりしたのだが、その辺りはやはりセレーネの身体は優秀で、よく動いてくれた。

 しかし、特に感じさせられるのは、ルーナの凄さだ。

 試験に向けた特訓では、それぞれ別々だった僕らだが、今回は初めて、2人で同じことに取り組んでいる。

 そこで見せつけられるのは、彼女の習得の早さ。

 始めた頃こそ、僕の方が勘所を掴んでいたものだったが、1時間もする頃には、すでにルーナの方が上達しているような有様だ。

 本来のヒロインである彼女の"何でもすぐに習得してしまう力"。

 こうやって、近くで見せつけられると、改めてその凄さを思い知らされる。

 よく、これまでの試験、五分五分で来られたよ、本当に……。

 とはいえ、僕も負けているわけにはいかない。

 なんとか食らいつくように稽古を続けているうちに、3時間もする頃には、ほぼほぼ最初から最後まで通すことができるようになっていた。


「ふぅ、なんとか形になってきたでしょうか……」


 一通りの"舞い"を踊り切り、僕がそう呟くと、つるつる人形もわかっているのかいないのか、コクリと頷くように首を動かした。


「セレーネ様、ルーナ様。おふたりとも素晴らしいです」


 パチパチと拍手を送ってくれるルカード様。

 彼も、喋れない人形に代わってアドバイスをしてくれたり、人形に魔力を送ったりと、つきっきりでサポートをしてくれている。

 基本、ルカード様は、褒めてやる気を伸ばしてくれるタイプなので、こちらのモチベーションをもりもり上げてくれる。

 学校でも、そんなところが、結構先生として人気高いんだよね。


「これだけ習得が早ければ、週末の聖燭祭にも十分に間に合いそうです」

「それは、良かったですわ」

「セレーネ様と2人の特訓だとあっという間にですね!!」


 3時間も練習したというのに、まだまだ元気が有り余っていそうなルーナが、キラキラとした笑顔で天を見上げている。

 ガラス張りになったそこには、ぽっかりと紅の月が浮かんでいた。


「夜も更けてきました。今日は、とりあえずこの辺りで終わりましょう」

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