186.お兄ちゃん、仕事をお願いされる
白亜の塔に到着すると、すでにルカード様とルーナが話をしていた。
「お、遅くなって申し訳ありません」
開口一番、謝罪をするも、ルカード様は首を横に振った。
「大丈夫ですよ。ちょうど時間通りです」
良かった。なんとか間に合ったらしい。
ホッと息を吐くと、僕は横に立っているルーナと笑顔を向け合った。
「さて、お忙しいところお呼びだてしてしまいましたが、さっそく本題の方に入らせていただきます」
クイっと眼鏡を上げると、ルカード様は話し始めた。
「間もなく聖燭祭が催されることは、お二人もご存じですね?」
「はい、もちろんです!!」
元気に答えるルーナ。
どうやら試験の話ではなく、聖燭祭についての話のようだ。
「実は、その聖燭祭の中で、お二人にはとある仕事をお願いしたく思っているのです」
「とある仕事……?」
「それって何なんですか?」
「ええ、それは"舞い"です」
『"舞い"?』
僕とルーナが同時に疑問符を浮かべる。
すると、ルカード様はコクリと頷き、話し始めた。
「毎年、聖燭祭では聖なる白き炎を灯す前に、聖女様による"舞い"が披露されるのです。ですが、その……。現役の聖女様は、体力的に舞いを披露されるのが、少し厳しい状況で……」
そう言えば、現役の聖女様は、すでに結構な高齢だと聞いた。
"舞い"というのがどの程度のものかはわからないが、ただでさえ寒い冬の夜、多くの人の前で舞いを披露することは、確かにしんどいのかもしれない。
「ですので、聖女様に代わって、お二人に"舞い"を披露していただけないかと思っているのです」
淡々と言ったが、それって結構な大役じゃないのか……?
「そ、その、私達、"舞い"というものがどういうものか、あまりわかっておらずで」
「その辺りは大丈夫です。当日までに、教会の方で指導をさせていただきますので」
つまるところ、これから当日まで、"舞い"の訓練をして臨んで欲しい、ということか。
うーむ、どれくらい本格的なものかはわからないが、そんな短期間でものにできるものなんだろうか。
ましてや、聖女様の代わりに、たくさんの人の前で披露することになるわけで……ちょっと荷が重い。
それに、"舞い"に参加するとなれば、ルイーザ達と一緒に聖燭祭を回るという約束も果たせなくなってしまうかもしれない。
「セレーネ様」
ふと、横を向くと、ルーナが僕の顔を覗き込んでいた。
「教会の方々も困ってるみたいですし、二人で引き受けませんか?」
「ルーナちゃんは、それでいいのですか?」
「はい。……あの、ルカード様、"舞い"が終わった後は、普通に聖燭祭を回っても良いんですか?」
「そうですね。その後は、自由にしていただいても構いません」
僕とルーナは視線を交わす。
"舞い"は最初に行われるそうだし、その後は、ルイーザ達と聖燭祭を回る時間もありそうだ。
それに……。
これは現役の聖女様に近づくチャンスでもある。
僕は、以前から一度、聖女様に直接お目にかかってみたいと思っていた。
それは、あの黒の大樹を見た時から、漠然と考えていたこと。
聖女という重責を背負った女性が、いったいどんな人物なのか。
この機会に、少しでもわかるというなら、仕事を手伝う価値もあるというものだ。
僕は再びルーナと視線を合わせると、コクリと頷き合った。
「ルカード様。そのお仕事、承りますわ」
「私もです!」
「おふたりとも、ありがとうございます」
嬉しそうに微笑むルカード様。
先日の事件の事でも彼にはいらぬ心労を与えてしまっていたし、この笑顔が見れるだけでも、仕事を引き受けて良かったというものだ。
「聖燭祭まで日がありません。さっそく明日から、"舞い"の指導を受けていただきたいのですが」
「わかりましたわ」
「はーい!」
こうして、僕とルーナは、現役の聖女様の代役として、聖燭祭にて"舞い"を披露することになったのだった。
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