185.お兄ちゃん、誘われまくる
「今度の聖燭祭、俺と一緒に回らないか?」
「ふぇっ!?」
アミールからのまさかのお誘い。
不意打ちすぎて、心臓がビクッとしてしまった。
「お前も知ってるだろ。俺は、ロマンチックな情景ってやつが好きでね」
彼はクルクルと笛を回しながら、そんなことを言う。
「白き炎が空に散っていくその場で、新曲を披露したいと思ってる。んで、お前にはその隣にいて欲しいんだよ」
そう言えば、彼はそういうところ結構こだわる人だった。
以前、ジ・オルレーンでも、港の雰囲気の良い場所で僕に笛を聴かせてくれたことがあった。
学内とはいえ、演劇の演出家としても活動している彼の事だ。
自分の新曲を卸す場は、特別なシチュエーションでありたいと考えているのだろう。
僕も、彼の笛は好きだから、一緒に過ごすのはやぶさかではない……のだが。
すでに、僕はルイーザやフィン達と聖燭祭を回る約束をしている。
先約が入っている以上、アミールと2人きりで回ることはできない。
だが、2人きりは無理でも、アミールもみんなと一緒になら……。
そう思い、彼に提案しようとしたその時だった。
「あれ、アミール様に、セレーネ様」
僕が口を開くよりも早く、横合いから碧い髪の美男子が僕らの元へと歩いてきた。
「エリアス様!」
いつものように微笑みを浮かべ、シャムシールと共に悠々と歩いてくるエリアス。
「奇遇ですね。お二人とも」
「お前……」
「エリアス様もご機嫌麗しゅう」
アミールと違って、エリアスには丁寧に礼をする僕。
同じ王子でも、こちらの王子様は、やはり品が違うのだよ。
「セレーネ様、実はちょうどお伝えしたいことがありまして」
「何でしょうか? エリアス様」
「ええ、今度の聖燭祭なのですが──」
「待った!!」
エリアスの言葉を遮り、待ったをかけたのはアミール。
「お前、お嬢様を聖燭祭に誘おうとか思ってるな」
「ええ、そうですけれど」
「悪ぃが、先に声をかけたのは俺だ」
グイっと前に出て、そう主張するアミール。
あの、アミールさん、僕、まだ承諾したわけじゃないんですけれども……。
「お前とはいえ、後から出てきて、お嬢様をかっさらっていかせるわけには……」
「アミール様。後も先もありませんよ。全ては、セレーネ様がお決めになることなので」
そう言いながら、こちらへとニッコリと微笑みかけるエリアス。
その笑顔が、今ばかりはプレッシャーを感じさせる。
どうしよう。これ。
なんか、どちらかを選べ、みたいな空気になってるよな。
いや、僕、ルイーザ達と回る予定なんだけどなぁ……。
角を立てないように、どう断ろうかと頭を回転させていると、その場にまさかのもう一人の王子が現れた。
「お前達、こんなところで何をしてるんだ?」
剣戦が終わったばかりだというのに、今日も今日とて、トレーニングをしていたのだろう。
真冬にも関わらず、薄手のチュニック1枚で現れた彼は、その発達した上腕二頭筋を惜しげもなく……って、筋肉描写は置いておくとして。
まさかの王子そろい踏み。いや、この辺りだけイケメン時空ができてるよ、本当に。
「何か相談事か?」
「あ、いえ、その聖燭祭の事で……」
「ああ」
合点がいったというように、ポンと手を叩くレオンハルト。
「そう言えば、間もなくだったな」
「ええ、それで……」
お誘いの事を伝えようとすると、レオンハルトは素早く僕に近づくと、肩を抱くように手を置いた。
『なっ!?』
アミールとエリアスが、なぜだか驚いた表情を浮かべている。
「セレーネ。俺も一緒に行くぞ」
サラッとそんなことを宣うレオンハルト。
彼の場合、一緒に聖燭祭を回ろう、という感じじゃなく、俺が護衛してやろう、とかそういう意味合いなのだろうが……。
例の一件を知らない2人は、無論、そんなこと知る由もなく……。
「大将! いきなり出てきて、それはないだろう!!」
「レオンハルト様……」
「な、なんだ。2人とも、何を怒ってる……?」
困惑するレオンハルト。
やっぱこの人、結構天然だよなぁ。
そんなところも可愛いんだけどさ。
「あのぉ、皆様……」
一触即発の雰囲気の中、どうこの場を納めようかと逡巡していると、肩をトントンと叩かれる。
「あっ、アニエス」
「セレーネ様、そろそろお時間が」
「ああっ!!」
そうだ。僕ってば、ルカード様に呼ばれてるんだった。
「お嬢様、いったい誰と──」
「すみません、皆様!! 私、用事がありますので!!」
「お、おいっ!?」
それだけ伝えると、僕はアニエスと共に、白亜の塔に向かって走り出した。
ごめん、みんな。また、返事は後で必ずするから!!
そそくさと道を駆ける中、僕の後ろでは、ポカーンとした表情の3人がその背中を眺めていた……んだろうなぁ、きっと。
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