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183.お兄ちゃん、聖燭祭の予定を立てる

「セレーネ様は、聖燭祭、どなたとお過ごしになるのですか?」


 3学期が始まって2週間ほどが過ぎた頃、登校中のルイーザがそんなことを質問してきた。

 ああ、もうそんな時期か。

 聖燭祭とは、この白の国アルビオンで遥か昔から行われている国を挙げた伝統行事である。

 内容としては、聖女様が白の魔力によって灯した"白き炎"を掲げた灯篭を持って、人々が街中を練り歩き、聖女様や世界そのものへの感謝を伝えるというもの。

 最終的には、それらの灯篭を川へと流すのだが、テーブルマウンテンの大瀑布から落ちて行く白き灯が宙に散っていく様は、得も言われぬほどの美しさらしい。

 儀式的な側面の強いイベントではあるが、聖燭祭を一緒に回った男女は将来結婚する、等という迷信なんかもあったりして、若者にも比較的カジュアルに受け止められている。

 ルイーザももちろんそのジンクスは知っている。

 知っていて、僕に問い掛けているのだろう。


「どなたと……」


 頭の中にパッと浮かんだのは……アニエスだった。

 いや、これは単純に一緒にいるのが当たり前になっているから、自然と想像してしまったというか。

 あの事件以降、アニエスは以前よりも一層護衛の目を厳しくしており、ちょっとした外出であっても、とにかく僕の傍にいるようになっている。

 学園での授業中も、さすがに教室の中に入って来ることはないものの、いつ何が起こってもいいように、1人廊下で警護をしていくれていることも多い。

 今ももちろん、適度な距離を取りつつ、僕の事を見守ってくれている。

 寝る時だけは姿を見かけないが、もしかしたら、天井裏くらいには潜んでいるかもしれない。

 とはいえ、邪教徒がこの白の国に出没する可能性は極めて低い。

 というのも、白の国に近づけば近づくほど、聖女様が発する浄化の力というのは強くなる。

 つまるところ、黒の魔力を持っている者は、基本的には白の国に入国することすらできないということ。

 もっとも、あのもぐぴーのように、例外なんかはあるようだけど。


「私は、特に誰かということはありませんわね。ルイーザさんの方こそ、誰か素敵な殿方とご一緒だったり?」


 答えを誤魔化すように逆に聞いてやると、ルイーザの方はケロッとしたものだった。


「私は1人ですわ。でも、もし、セレーネ様もおひとりでしたら……」

「あー、ルイーザちゃん、ずるい!! 私も!!」


 と、逆サイドから、ルーナが私の腕へと抱き着いてきた。


「セレーネ様、聖燭祭。是非、一緒に回りましょう!」

「ちょ、平民!!」

「えへへ~、早いもの勝ちですよ~!!」


 あー、なんていうか、日常だなぁ。

 紅の国では、散々な目にあったので、このやり取りを見ているだけで、正直めちゃくちゃホッとする。

 形ばかり牽制し合っている二人に向けて、僕は思わず恵比須顔を浮かべた。


「まあまあ、おふたりとも。3人で一緒に回りましょう。ねっ」


 僕がそう言うと、2人は素直に頷いた。

 うーん、なんかこの2人の喧嘩はもはやプロレスになってきてるな。

 こう僕に諫められつつ、折衷案を提案して貰えるのを待っている節がある。

 本当はめちゃくちゃ仲良いくせに。


「あっ、セレーネ様。シュキちゃんも一緒でも構いませんか?」

「ええ、もちろんですわ」

「そ、それでしたら、フィー様も」

「……たぶん、大丈夫ですわ」


 フィンよ。頑張れ。


「はぁー、女同士の友情というやつですわね……!!」


 ルイーザは両手を組んで、目をキラキラと輝かせている。

 よほど、みんなで聖燭祭を回るのが楽しみらしい。

 いやしかし、ルイーザやルーナもこんなに可愛いのに、一緒に祭りを回る男子1人いないなんてなぁ。

 この世界の人間の見る目はいったいどうなってるんだ。まったく。

 けど……。

 一瞬、ふと、レオンハルトの顔が脳裏に浮かんだ。

 白い灯篭を持って寄り添って歩く僕とレオンハルト。

 温かな白い炎が、彼の端正な顔を優しく照らして、やがて僕らは……。


「セレーネ様?」

「はっ!?」


 気づけば、ルーナが顔を覗き込んでいた。


「どうかしましたか。ボーっとして?」

「な、何でもありませんわ……!!」


 まったく、僕は何を想像しているんだ。

 レ、レオンハルトと二人っきりで過ごす様子を想像するなんて、それじゃ、まるで……。


「セレーネ様?」


 ルーナとルイーザが揃って首を傾げる中、僕は必死に顔の火照りを抑えようと手で風を送るのだった。

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