182.黒の使者メラン
「あー、なんか良い感じっぽいなぁ~。聖女候補様に紅の王子様」
街道から少し離れた大木の頂から、もはや小隊規模で護衛されている聖女候補様の姿を眺め見る。
今回の件で、随分と警戒心を持たせてしまったみたいだ。
まあ、誘拐なんて事をしたのだから当然だね。
とはいえ、そもそも今回は"失敗することが目的の1つ"だったのだから、別にいい。
本当に彼女の力を借りなければならないのは、もうしばらく先の話だ。
「まあ、今回は今回で、十分目的は達成できたしねぇ」
俺はポケットから聖女候補様に取り付けていた腕輪を取り出す。
怪しげな至極色に輝いていた宝玉は、今は彼女の白い魔力で満たされ、清純な光を放っている。
これさえあれば、計画の次の段階へと進むことができる。
その上、情報も十分に得られた。
2人の聖女候補にうち、どちらが真の聖女かもほぼほぼ見極めることができたしね。
そして、あのレオンハルト王子の実力も知ることができた。
彼の存在はある種の脅威ではあるけど、今はまだ無理に殺そうとしなくても良い。
それよりも、聖女候補様の"成長の糧"になってもらう方がよほど有用というもんだ。
「次に会う時は、どんな風になっているかな」
どこか人を惹きつけるような不思議な魅力を持つ、あの少女。
彼女はこれからも変わっていくだろう。
そして、次に会うのは、そう遠い未来じゃない。
「ふふっ、楽しみだなぁ。今度はきっと……」
その時を思うと、胸の奥が震える。
ああ、きっと彼女は、俺達にとって唯一無二の救世主になってくれるはずだ。
片眼を隠すように手を掲げた俺は、声を上げる。
「我こそは、漆黒の運命に導かれし闇の眷属"メラン"。白の乙女よ。再び相まみえることを楽しみにしているぞ」
遥か彼方の聖女候補様に向けて、一方的にそう告げると、俺はそのまま虚空へと身を投げ出したのだった。
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