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180.お兄ちゃん、護衛される

「はぁ、なんだか凄いことになってしまいましたわね……」


 馬車の窓から見える外の風景。それを見て、僕は思わずそんな風に呟いた。

 堅牢な紅の国製の馬車の周りには、馬に乗った騎士が10名以上もフォーメーションを組みながら、並走している。

 これらは全員、僕の護衛ということになっている。

 剣戦が終わってから3日。

 事情聴取などを終え、本来よりも少し遅くなってしまったが、僕は白の国への帰路についていた。

 レオンハルトとアニエスと共に、たった3人で王都まで来た時とは大違いだ。

 だが、これも必要な処置。邪教徒の暗躍が明るみに出た今、聖女候補である僕を護るために、紅の国はこれだけの人員を用意してくれた。

 多少過保護が過ぎる気もしないでもないが、僕としても、二度とあんな目には遭いたくはないので、ご厚意に甘えさせてもらっている。

 さて、この有様からもわかる通り、あれから色々な事があった。

 剣戦では、見事レオンハルトが初の優勝を飾った。

 最後の対戦相手であった金獅子が、まさか国王様その人であったのは驚いたが、聞いてみれば、陛下も昔は今のレオンハルトのように武者修行に明け暮れた武人だったらしい。

 年老いてなおあれだけの実力を維持していたことはさすがという他ないが、そんな圧倒的な強さを誇る陛下すらも、レオンハルトは打倒してみせた。

 彼は人生において、一つの大きな目標を果たしたのだ。

 優勝が決まった後、父王から自身の勝利を宣言されたときに、驚きから喜びへと変わっていった彼の表情が目に焼き付いている。

 僕のせいで、彼が剣戦を棄権することにならなくて、本当に良かった。

 そんなわけで、剣戦については、めでたしめでたし、といったところだったのだが、如何せん邪教徒についてはわからない事だらけだ。

 まずもって、今回の件に関わったとされる邪教徒は4人だ。

 1人は、アニエスの父親であるシェール騎士爵。

 アニエスとの戦いで重傷を負った彼は、僕の白の魔力のおかげで一命をとりとめた。

 その後は、まるで憑き物が落ちたように大人しくなり、自分がどういう経緯で邪教徒になったのか、それを淡々と語ったらしい。

 邪教への誘いを受けたのは、半年ほど前の事。酒場で自身を放逐した騎士団への恨み節を語っていたところを、あのメランから勧誘されたのが最初だった。

 話を持ち掛けられた直後は半信半疑だった騎士爵だったが、黒の瘴気により、自身の肉体が全盛期を上回る力を得るのを体験させられたことで、入信することを決めた。

 そして、時折同じ邪教徒である御者をしていた男と連絡を取り合いつつも、"上"から指令がもたらされるのを待っていた。

 搔い摘んで言うと、そう言った流れらしい。アニエスの仕送りは、そういった活動資金の一部に使われていたようだ。

 シェール騎士爵以外の2人についても同様。時期の違いはあれど、勧誘したのはメランだ。

 僕に魔力を吸収する腕輪を嵌めた事からも半ばわかってはいたことだが、やはりメランも邪教徒の一員、それもかなり重要な役割を持たされている人物らしかった。

 彼の消息は未だつかめておらず、結局あの後、彼は一度も姿を見せていない。

 捕まった3人の邪教徒は、僕を攫う目的すら詳しくは知らされておらず、使者……つまりメランからの言伝通りに動いただけということだった。

 事件は解決した、とはとても言えない状態。メランがまだ捕まっていない以上、これ以降も僕が狙われる可能性は十分にある。

 だからこその、この厳重な警戒態勢という訳だった。

 命を奪われる可能性もあった今回の事件。

 僕は改めて、危険というものが、自分の近くに常に付きまとっていることを理解させられた。

 たまたま聖女試験が上手く進んだおかげで、少し前の僕には油断があった。

 そして、その油断は、自分の命を危険に晒すだけでなく、アニエスを傷つけ、あるいは、レオンハルトの夢を壊してしまいかねなかった。

 これからは、気を引き締めて、もっと慎重に行動しなければならない。

 聞けば、シェール騎士爵を含め、捕まった3人の邪教徒の動機は、いずれも"現状への不満"だった。

 騎士爵は言わずもがな。他の2人も、それぞれ己の立場や周囲に対しての不満から、邪教に染まってしまった。

 彼らの崇高な使命とはすなわち"黒の国を復活させること"。

 黒の国とは、彼ら曰く、自分たちの望みが叶う夢の国であるらしい。

 実際に、かつて存在した黒の国が、どんなものであったのかは僕にはわからない。

 だが少なくとも、黒の魔力には人間の心の隙間をついて、闇に染め上げてしまうような力があるらしい。

 どんな人にも程度の差はあれ、闇の部分というのはある。

 つまるところ、誰もが邪教徒になる危険性を秘めているということ。

 疑心暗鬼になるのは嫌だが、常に警戒を解くわけにはいかなくなってしまった。

 もっとも、現役の聖女様の祈りによって満たされている白の国の中には、邪教徒は入り込めないとは言われているようだけど……。

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