165.お兄ちゃん、王子の雄姿にときめく
声が聞こえた。
数万人レベルの観客達が浴びせかける大声援の中で、唯一、その声だけが鮮明に俺の耳へと届く。
その声を聞くだけで、俺の胸に確かな力が生まれる。
歌声も好きだが、俺は彼女の素の声が好きだ。
語り掛ける時の優しい声色が好きだ。
それが、他の誰かへと向けられる時、どうしようもなく嫉妬してしまうほどに。
でも、今は違う。
俺だけを見つめ、俺だけに必死に声を届けようとしてくれる彼女。
俺に進むべき道を示してくれた彼女。
そんな彼女──セレーネ・ファンネルに、俺は、己が研鑽してきた全てで応える。
「勝つさ。セレーネ」
一言だけ呟くと、俺は深く腰を落とした。
鍛え抜いた肉体は、今や紅の魔力を纏った騎士団長にも引けを取らない。
だが、おそらく技量では、まだ、わずかに俺の方が劣る。
バーザムには年齢相応の戦闘経験の豊富さがある。
学園という限られた環境に身を置くことになったこの1年で、その経験の差を埋めることはできなかった。
ならば、できることは一つだ。
全ての力を瞬間的にぶつける。
相手が魔力を絞り出すように、俺も肉体の全ての力を絞り出すのみだ。
バーザムが動いた。
そして、その身体が5つに増える。
先ほど、俺へと放った分身攻撃。
そのさらに上を行く、バーザムにとって究極の一撃。
おそらく消耗が激しいために、この技を使うのは、最後の最後まで取っておいたのだろう。
つまり、この技さえやり過ごしてしまえば、バーザムのパフォーマンスは大きく落ちる。
継戦能力という面では、魔力に依存している騎士達よりも、俺の方が遥かに上だ。
最強の技を放った直後で、疲弊しているバーザムを討ち取ることは、さほど難しくはないだろう。
だが、俺の頭の中には、回避も防御もない。
ただただ、迫りくる力に、力で打ち勝つ。
それこそが、彼女が示してくれた俺の"覇道"。
「はぁあああああっ!!」
渾身の力を込めて、ただただ最速で剣を振り抜く。
これまでの全ての研鑽をこめた一撃。
剣と剣が交錯したその瞬間、相手の剣を砕く、確かな感触が俺の腕には広がっていた。
「ははっ……凄いよ。レオンハルト……!!」
熱狂の最中、昨年度の優勝者である騎士団長バーザムを下したレオンハルトが、勝鬨を上げるように剣を掲げた。
それに応えるように、観客達からは惜しみのない拍手が送られる。
まだ、1回戦だというのに、まるで決勝戦を終えたかのような大歓声だ。
それほどまでに、この戦いは見る者にとって、後々の語り草になるほどにハイレベルな戦いだった。
レオンハルトの最後に放った一太刀は、まさに"剛"の一撃だった。
誰よりも速く、誰よりも強く、そして、誰よりも気迫のこもった一撃。
筋肉は全てを解決する、とでも言わんばかりの脳筋なその攻撃は、騎士団長の技も、経験も、全てを吹き飛ばして、尚、余りある威力だった。
完全に乙女ゲームのキャラを逸脱したその強さに、半ばツッコみをいれたくなる気持ちはあるが、それ以上に僕は感動していた。
元のゲームよりも、ずっと強く、逞しく成長したレオンハルト。
3年間の彼の努力を知っているからこそ、ここまで至った彼に、僕は純粋に尊敬の念を抱いていたのだ。
「レオンハルト様……」
倒れた騎士団長に手を貸す彼の横顔を見ながら、僕の口から自然と彼の名が漏れた。
なんだろう。
胸の辺りが熱い。
やはり、元男だからだろうか。
純粋に強い男というのは、同性からも敬愛されることが多い。
だから、今感じているこの気持ちもきっとそれで……。
と、その時だった。
立ち上がった騎士団長と握手を交わした直後、レオンハルトが僕の方へと視線を向けた。
真っすぐに僕を見つめるレオンハルト。
そのどこかやり遂げたような表情は、なんだか普段のレオンハルトよりも、もっと格好良いように感じられて……。
ボッと頬の辺りが熱くなった僕は、思わず顔を覆っていた。
あー、もう!! またかよ、強制力!!
でも、ダメだ。今は、今だけは、彼を労ってあげないと。
ゆっくりと顔を覆う手を解く。
顔の火照りを極力気にしないようにしながら、僕は、グッと彼に親指を立てた。
そして、二ッと笑みを浮かべる。
およそ貴族の令嬢らしくない労い方だったろうが、彼はそんな僕を見つめ、どこか嬉しそうに親指を立て返してくれたのだった。
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