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156.お兄ちゃん、まとめて癒す

「セレーネ、来たのか?」


 剣を鞘に納めながら、レオンハルトが爽やかな笑顔を浮かべて、こちらへと歩いてきた。

 百人組手を終えたばかりだというのに、まだまだ余裕のありそうなその態度に、僕の笑顔も引き攣る。

 紅の魔力の身体能力強化を前提としている他の騎士達と違って、そもそもの基礎体力が違うんだろうなぁ。

 もはやこの人、戦闘民族と言っても過言じゃなさそうだ。


「はい、少しお伝えしたいことがありまして」

「伝えたいこと?」

「あー、でも、その前に……」


 僕は周囲へと目を向けた。

 そこにはレオンハルトと戦って、ボロボロになった騎士達がそこかしこに倒れている。

 真剣で戦っているわけではないので、もちろん致命傷を受けている者はいないのだが、あのレオンハルトの馬鹿力を受けたせいで、皆グロッキー状態だ。


「まったく、騎士団の質も下がったものだ。これでは、どちらが守る立場がわからん」

「あはは……」


 あなたが規格外すぎるだけかと思います。

 さて、こんな状況だし、明日の予行練習をさせてもらうとしますか。


「ラー♪」


 僕は歌に白の魔力を籠める。

 音として伝わったその魔力は、聴いた者に癒しの効果を発現する。


「な、なんだ、急に痛みが和らいで……」

「それに、なんて心地よい……」


 倒れ伏していた百人の騎士達が、次々と立ち上がっていく。

 今回のように、打撲やむち打ち程度の怪我であれば、こうやって広範囲を一気に回復させることだってできる。

 アミールとの歌唱練習が効いたのか、最近ではこんな芸当もできるようになってしまった。

 聖女になるつもりはないんだけどな……。

 まあ、昔エリアスにも言ったけど、使える力は使わせてもらうとしよう。


「お前、そんなことまでできるようになっていたのか」

「はい。明日の剣戦でも、お役に立てると思いますわ」

「そうか……」


 あれ、なんでレオンハルト、微妙な表情をしているんだろうか。

 と、少し疑問に思っている間に、先ほど最初に話しかけた若い騎士が、感動したような顔で僕を見つめていた。


「今の魔法……もしかして、聖女候補であらせられるセレーネ・ファンネル様ですか!?」

「えっ? あ、はい、私がセレーネ・ファンネルですが」

「やっぱり!! 噂通り、なんてお美しい……!!」


 え、えらく、キラキラした瞳で見て来るな……。

 気づけば、僕達の周りには癒しの力を受けた騎士達が集まって来ていた。


「貴方様の魔法のおかげで、すっかり元気になりました!!」

「ありがとうございます!! レディ・セレーネ様!!」

「いや、こんなに凄い魔法が使えるなんて……。噂通り、次の聖女になるのはきっと──」

「お、おい!!」


 何かを口走ろうとした一人の騎士の口を、また違う騎士が塞いだ。

 そして、周りにいた騎士達の視線が、なぜかゆっくりとレオンハルトの方へと向く。

 あ、そうか。一応、僕はレオンハルトの婚約者ということになっているから、皆、気を遣ったわけか。

 とはいえ、それは仮のもので、レオンハルト本人も別段僕との結婚をそれほど重要に思ってはいないだろう。

 現に、今もレオンハルトは無表情で地面を見つめて……って、あれ、もしかして、ちょっと不機嫌?

 いや、きっとそう見えるだけだ……よな?

 と、その時、注目を集めるかのように、パンパンと誰かが手を叩いた。アニエスだ。


「ん、あのメイドは……えっ!?」

「アニエス!? あの"蛇遣い"アニエス・シェールか!?」


 メイド服ゆえに、最初はアニエスの事を認識できていなかった騎士達が驚きの声を上げる。


「そうか。彼女が護衛してるっているのは、まさか……」

「さて、皆さん。どうやら随分元気になられたようですね」


 無表情のままそう言ったアニエスは、訓練場の壁にかけてあった練習用の刃引きした剣を手に取ると、クルリと振り返った。


「では、私にも少し付き合っていただけませんか。しばらくぶりに、皆様の胸を貸して下さいませ」


 凍てつく笑顔を向けたアニエスに、屈強な騎士団の面々は天を仰いだのだった。




「あ、改めて、凄いですわね。アニエス……」


 目の前で繰り広げられる2度目の百人組手。

 その壮絶な光景に、僕は戦々恐々としていた。


「学園でも時折俺と組み手をしていたからな。腕は鈍っていないようだ」

「そ、そうだったんですのね……」


 知らなかった。学園で2人がそんなことをしていたとは。


「それにしても、アニエスが剣戦への出場を望むとはな」

「ええ、たまには暴れたいみたいで」


 シェール騎士爵との件を誤魔化すように、僕はそんな風に答えた。


「ダメでしたか?」

「いいや、構わんさ。大会中くらいは、お前の護衛任務を解いても支障はないだろう。それに俺自身、本気のアニエスとは戦ってみたいしな。あいつの本領は、"あの武器"を使っている時だ。普段の訓練では、せいぜい6、7割程度の実力しか発揮できていないだろう」


"オラ、ワクワクすっぞ"的な表情を浮かべるレオンハルト。

 ああ、やっぱりこの人、戦闘民族なんだなぁ。

 それにしても、アニエスの武器というと、いつも太ももに巻くように携帯している蛇腹剣のことだろう。

 確かに今もそうだが、普段の対人訓練で手にしているのは、木剣や刃を引いた鉄剣で、本来の武器の使い方とはまた違っている。

 実際、最も得意な得物を全力で振るえたら、アニエスはもっととてつもなく強いのだろう。

 もしかして、案外ベスト4までいけちゃったりするのか?

 というか、アニエスとレオンハルトがもし本選で戦う事になったら、僕はどっちを応援したら良いのだろうか……。

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