149.お兄ちゃん、王都に辿り着く
全身黒づくめで中二病の青年、メランと旅をすることになった僕達。
とはいえ、道中は何が起こるでもなく、順調に進んだ。
シルバーの剛脚は、乗せる人間が2人になろうと全く衰えるそぶりもない。
ただ、朝露で湿った地面で滑らないように、ややペースを落としたくらいだ。
メランはテンションが高く、ずっと喋ってばかりいるかと思いきや、10分もする頃には、レオンハルトに抱き着くようにして眠ってしまっていた。
「ぐぅー、がぁー……zZZ」
「こいつ……」
「落ちてしまわないかしら?」
「落ちたら、その場に置いて行ってやる……!」
とまあ、そんな感じで、レオンハルトのストレスを溜めつつも、旅程を順調に消化し、予定よりわずかばかり遅れたものの陽が落ちる前には、十分王城が見える辺りまで到着することができた。
「ふぁー、良く寝たぁー! あっ、カーネル城じゃないかっ!!」
ちょうど到着のタイミングで起きたメランが、嬉しそうに声を上げた。
「貴様……」
休憩中だけはしっかりアニエスの用意した軽食を食べつつも、ほぼほぼ半日ほど馬の上で寝ていただけのメランに、レオンハルトの額に青筋が浮かぶ。
「いやぁ、本当に助かったよぉ!! これで剣戦も見れそうだ!!」
「メランさんは、剣戦を見に来たんですの?」
「そうだよぉ! やっぱり紅の国に来た以上は、見ておきたいしねぇ!」
この時期は観光客も多いみたいだもんなぁ。
メランに限らず、宿場町も大いににぎわっていたし、国としても、今が書き入れ時なのかもしれないな。
「それに、お兄さんも出るんでしょ。剣戦」
「何……?」
不意打ちのようなメランの言葉に、レオンハルトがシルバーを走らせつつも、鋭い視線を向けた。
「帯剣してる上に、この鍛え抜かれた身体。そして、今の時期に王都に向かっているとなれば、さすがの俺でも察しはつくよ」
うっとりとレオンハルトの背を撫でるメランに、生理的嫌悪感が沸々と湧き上がってくる。
えっ、もしかして、この人、そっち系なの……。
「撫でるな。気持ちが悪い!!」
「ごめんごめん。でも、応援してるからさぁ。がんばってね。お兄さん♪」
どこかデヘデヘとした笑顔に気持ち悪いものを感じながらも、僕らはいよいよ王都に入ろうと門を目指した。
元々武を重んじる紅の国は、いつ戦争をしかけられても大丈夫といったような、堅牢そうなつくりをしている。
街は、かつて戦時中の拠点として活用されていたアルビオン学園同様、グルリと高い外壁に囲まれ、王都の中へと入れるのは3か所しかない。
その中でも街道に面した正門へと近づいていくと、突然、メランが"シルバーから飛び降りた"。
「えっ?」
いきなりの行動に驚いたが、それ以上に、走行中の馬から飛び降りて、そのまま簡単に着地してみせた意外な身体能力に驚かされた。
そして、そのままメランはこちらへと手を振っている。
「ありがとぉー!! 剣戦楽しみにしてるよぉー!!」
一応はお礼の言葉を述べつつ、こちらを見送るそぶりのメラン。
どんどん小さくなっていくその姿を横目で眺めながら、僕は思わずつぶやいた。
「本当に、何でしたの、あの人……」
「さあな。だが……」
レオンハルトは、何かを思案するように、剣の柄に手を伸ばした。
「あいつはたぶん……」
彼がその先の言葉を言うことはなく、僕らはほどなく正門へと辿り着いたのだった。
そこからは、あれよあれよという間に、兵士から兵士へと伝令が告げられ、30分もする頃には僕らは国王様を前に首を垂れていた。
「ただいま戻りました。父上」
片膝をつき、畏まったレオンハルト。
同じく、僕も膝をつく。
旅装のままだったけど、大丈夫かな……。
僕のそんな心配など他所に、レオンハルトの父であるカーネル王は、その蓄えた長いひげをしごきながら、「楽にして構わん」と僕らの顔を上げさせた。
「レオンハルト、どうやら鍛錬は怠らなかったようだな」
どこでそう判断したのかはわからないが、カーネル王は、レオンハルトの様子を見て、満足げに目を細めた。
「はい、今年は優勝するつもりで、戻ってまいりました」
「その意気やよし。だが、剣戦の間口は広く、蓋を開けて見ねば、どんな豪傑が現れるやもわからん。努々油断はせぬようにな」
「肝に銘じておきます」
そして、カーネル王の視線は僕へと移る。
深い皺の刻まれた目元には、レオンハルトと同様、美しい蒼い瞳が光っている。
会うのは2年半ぶりくらいだが、やはりレオンハルトの父親だけあって、圧倒的な風格がある。
「レディ・セレーネ。この度は、愚息のために、遥々やってきてくれたことに感謝する」
「い、いえ、そんな……勿体ないお言葉です!」
「ふむ、それにしても、少し見ぬ間に、いっそう美しさを増したようだ」
厳格な見た目に反して、なんだか久々に孫と会うおじいちゃんのように顔をほころばせたカーネル王は、再びゆっくりとカイゼル髭をしごく。
「剣戦は2日後に行われる。聞けば、聖女の力で大会を手助けしてくれるということだが」
「はい。怪我人が出ても、私の白の魔力であれば、癒すことができますので」
「それはありがたい。毎年どうしても重傷者が少なからず出てしまうものでな」
さすが大陸一の武の祭典。血なまぐさいな。
「力を貸してもらえると助かる。その分、出来る限りのもてなしはさせてもらおう」
「ありがとうございます」
そんなこんなで、国王様との謁見も済ませた僕は、ホッと胸を撫で下ろしたのだった。
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