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145.お兄ちゃん、休憩する

 さて、学園から1時間もかからぬうちに、アルビオンからカーネル側の昇降機へと僕らはたどり着く。

 テーブルマウンテンの上という特殊な立地にあるアルビオンはそれぞれの国へ移動するのにも、魔力式昇降機を使わなければならない。

 順番待ちを終え、一般の人々と共に、下の大地へと足を降ろすと、そこからさらに街道を走り出す。

 最初の方は、行商人なんかの馬車もちらほらあったが、走り出して数十分もする頃には、周りにはそんな姿も見えなくなった。


「やっぱり荷も積んでいない馬だと早いですわね」

「ああ、心配していた積雪も大丈夫そうだな。この分だと、余裕を持って到着できそうだ」


 快調に街道を飛ばしながら、僕らは進んで行く。

 実際のところ、クレッセントやシルバーが単純に優秀なのもあるだろう。

 試合の一件から、持久力に心配のあったシルバーの方も、無茶な走り方をしなければ、まだまだ余裕がありそうだ。

 とはいえ、あまり急ぎすぎてもトラブルにつながる。


「小川が見えます。あの辺りで、少し休憩を致しましょう」

「ええ」


 そう思っていた矢先のアニエスの提案に、僕とレオンハルトは素直に頷いた。

 森の近くにある小川へと辿り着いた僕達は、馬から降りると、それぞれの馬に水を飲ませた。

 水分補給を済ませたクレッセント達は、思い思いに、その場の草を食み始める。

 冬場だが、柔らかい草が自生していて助かったな。


「我々も昼食に致しましょう」


 そう言って、アニエスがどこからかバスケットを取り出した。

 蓋を開けると、入っていたのはサンドイッチだ。

 たまごにトマト、レタスにハム。

 定番メニューだが、どれも美味しそうだ。


「これは、寮母に作ってもらっていたのか?」

「いえ、私が作りました」


 その言葉に、レオンハルトがマジマジとアニエスの顔を見る。


「料理もできるのか?」

「はい、公爵家に奉公し始めてから練習しました」


 単独で僕の護衛兼お世話を務める機会も多いアニエスだ。

 どんな状況にも対応できるようにと、屋敷のシェフから一通りの手ほどきを受けていた。

 最初は案の定、失敗ばかりだったアニエスだが、今ではこんなにも美味しそうなサンドイッチを作れるようになっている。


「やはり、お前にセレーネの護衛を任せて正解だったな」

「ええ、アニエスは最高のパートナーですわ」


 実際、アニエス以上の適役など、国中探しても他にいないだろう。

 元々突出した容姿と腕っぷしを兼ね揃えていたが、メイドとしての仕事も今や完璧だ。


「そんな。勿体ないお言葉です」


 あまり表情は変えずとも、恥ずかしそうに身を捩るアニエス。

 4つも年上だけど、そんなところはくっそかわいい。

 そうして、しばらくアニエス特製サンドイッチを堪能しつつ、僕らは休憩を取った。

 流れていく雲に、煌めく陽光。

 少し肌寒くはあるが、それでも十分に心地よい。

 近くでは、ゆったりと草を食む愛馬達。

 いやぁ、何というか牧歌的な雰囲気だなぁ。


「こうしていると、エリアス様と遠乗りした時を思い出しますわね」

「エリアスと……」


 僕の言葉に、レオンハルトがぼそりと呟く。


「ええ、"心"の試験に向けての乗馬訓練をしていた時に」

「……そうか」


 あの時は、ちょうど前世のトラウマを克服したばかりで、物凄く楽しかった記憶がある。

 クレッセントと共に、アルビオンの広大な景色の中を風のように走る。

 試験でも勝利することができたし、本当にエリアスには感謝しかないな。

 演劇の時のアドリブの件はちょっと恨んでるけど。


「たしか、にらめっこをしたりなんかもしたんでしたっけ。ふふっ、我ながら、子どもっぽいことをしましたわね」


 そうそう。なぜだか、エリアスがじっと視線を向けて来たので、それに対抗して見つめ返してやったんだよな。

 結果は、僕の勝利。

 ほんの少し前の出来事なのに、もう随分の前の事のように感じる。色々ありすぎたせいだな。


「にらめっこ……。それは、どんなふうにやったんだ?」

「レオンハルト様もやりたいんですの?」


 もしかして、にらめっこってこの世界の王族の間ではトレンドなのか?


「あ、いや、そういうわけじゃ……」

「ふふ、こういう感じですわ」


 言いながら、僕はレオンハルトの顔を無言でジッと見つめた。

 位置的な関係で少し上目遣いになってしまっているが、エリアスとの時も確かこんな感じだったな。

 真面目な顔で見つめているが、変顔でもした方が良いだろうか。

 いや、さすがに王子様相手にそれは止めといた方がいいか。

 そんなとりとめもないことを考えながら見つめて続けていると、わりとすぐにレオンハルトが視線を背けた。


「はい、レオンハルト様の負けですわ」

「いや、お前、これ……」


 なぜだか、真っ赤な顔をしたレオンハルトは、未だ視線を合わせてくれない。

 どうやら、僕は相当にらめっこが強いようだな。


「あれ、アニエス。笑ってません?」

「っぅ……そのようなことは……っ……」


 なんだかわからないが、この旅が始まってから、えらくアニエスが楽しそうだな。

 そんな最中、十分疲れは取れた、とばかりにクレッセントが僕の方へと歩み寄ってきた。

 さて、そろそろ出発するとしましょうか。

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