142.妹からの助言 その6
「──というわけで、第3試験は、引き分けってことになったんだけどさ」
お久しぶりの精〇と時の部屋じみた白い空間の中で、僕は実妹にこれまでの聖女試験についての報告を終えていた。
「何というか。もう計画とは全然違う結果になっちゃってる感じだよ」
『いいじゃん、いいじゃん。どんな形であれ、今のところは順調ってことだし』
「まあ、それはそうなんだけどさ……」
以前、優愛と考えていた計画では、第1試験は勝利し、第2試験は勝負を捨てるつもりだった。
ところが、ふたを開けて見れば、確実に勝利するだろうと思っていた"力"の試験では敗北を喫し、逆にクレッセントやエリアスのおかげで、"心"の試験では勝利を捥ぎ取ることができた。
そして、今回の"藝"の試験での引き分け。
想定外にもほどがあるが、結果としては1勝1敗1引き分けとなり、全体として見れば、ほぼほぼ当初の予定通り進めていると言うこともできる。
「でも、引き分けなんてなるとは思わなかったからさ。残りの試験がどうなるのやら」
『あー、一応レアケースだけど、ゲームでも"藝"の試験の引き分けパターンはあったよ』
「そうなのか?」
『うん。その場合、第4試験である"智"の試験がカットされるの』
「おおっ!!」
それはかえってありがたいのでは……!!
『元々、"智"の試験って一番地味な試験だしね。ゲーム的にもさ』
「ああ……」
以前聞いた話では、確か"智"の試験は、単純に学力テストの成績で競い合うというものだったか。
僕の学力はこの世界においてはそれなりに高いレベルにあると思うが、ルーナの成長率を考えれば、この試験を避けられるのはかなり大きい。
「だったら、残るは最後の試験で良い感じに負ければ良いだけってことだな!!」
なんだよ。引き分けパターン最高じゃないか。
もう勝つ必要もないから、手を抜いてても僕は友情エンドに進めるという事だ。
まさか、こんな段階でほぼほぼ、余生の安寧を手に入れてしまうなんて。
いやぁ、人生悪いことばかりじゃないもんだね!!
とはいえ、この世界はゲームのそれとは少しずつ違ってきているようだし、あんまり気を抜きすぎないようにしないとな。
そんな風には思いつつも、やはりホクホク顔でいると、優愛がそれを無言で眺めていた。
『いいなぁ。お兄ちゃんは調子良さそうで』
「そういや、お前、今日ちょっと元気ないな」
『んー、まあ、色々あってね……』
「なんだよ。歯切れが悪いな。攻略で行き詰ったのか?」
『そういうわけじゃないけど……。まあ、お兄ちゃんに相談できる内容でもないから、こっちはこっちでなんとかするよ』
前世では、絵に描いたような陽キャだった妹。
こんな姿を見せることは滅多にないので、気になるところではあるが……。
まあ、陰キャの僕が助言できることなんて何もないか。
と、そこで、白い空間が揺らいだ。
どうやら、試験についての報告で、随分時間を使ってしまっていたようだ。
「ああ、そうだ!! 最後に聞きたかったんだけど、暁の騎士って、あれ誰なんだ? ゲームでも出て来たのか?」
『ヒロインの試験を手助けしてるって仮面の人?』
「そうそう」
『んー、ゲームにはそんな人出てこなかったしなぁ。でも、もしかしたら──』
と、そこで、今度こそ視界に靄がかかる。
『た……ん……オ…………かな』
音も遠くなり、優愛が何を言ってるのか聞き取れない。
「おい!! なんだって──」
だが、こちらの呼びかけも空しく、気づくと、僕はいつしかわずかにズレた紅と碧の月を見上げていた。
「あー、もうちょっとで聞き取れたのに……」
とはいえ、暁の騎士の正体は置いておくにして、改めて、自分が順調に進んでいることは確認できた。
妹の方の状況は少しばかり気になるが、まずは、僕の方が聖女試験を乗り越えて、安全を確保しないとな。
第4試験がカットされるとなれば、最終試験の開始は、確か2年生に進級してからだったはず。
しばらくは少しゆっくりできそうだな。
……その時の僕は、後々あんなことになるとも知らず、完全に油断しきっていたのだった。
次話から新章に入ります。
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