130.お兄ちゃん、稲刈りをする
そんなこんなで翌日の朝露の乾いた頃、水田には多くの女の子メンバーが集まっていた。
僕ことセレーネ・ファンネルに、アニエスとフィー。
ルイーザ、ルーナ、そして、ルーナが連れてきたシュキだ。
「6人もいれば、刈り入れ自体はすぐに終わりそうですわね」
「えっ、他にも何かあるんですか?」
「当然です」
ルイーザが腰に手を当てつつ、作業内容の説明をする。
「刈り入れが終わったら、お米の乾燥をします。それが終わったら、籾摺りに精米。今日中に新米をいただくためには、やることはいっぱいありますわ」
「これは、確かに1日仕事ですね……」
今更ながら、安易に協力を承諾したらしいシュキは後悔したような表情を浮かべていた。
「では皆さん。始めるとしましょう!」
ルイーザの掛け声でいよいよ稲刈りがスタートした。
前世の日本でならコンバインで軽々とやってしまえるような作業だろうが、この世界ではもちろん手作業だ。
あらかじめ水を抜いておいた水田の中に、裸足になって脚を降ろす。
若干ぬかるみの残るフニフニとした感触は、僕なんかには気持ち良く感じられるのだが、始めて体験するらしいシュキにとってはあまり心地よいものではなかったらしく、移動するだけでもおっかなびっくりだ。
「シュキちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫よ……!」
「無理そうだったら、休んでいてもいいからね」
「だから、大丈夫だって……!!」
そんなルーナやシュキの姿を横目に、ルイーザは稲の刈り方を実践してみせる。
「こんな風に稲を掴んで、自分の方に軽く引っ張って下さい。そして、少しすくい上げるように鎌を引けば、綺麗に刈れますわ」
説明しながらも、そそくさと稲を刈るルイーザの手並みはさすがと言ったところ。
真似してやってみると、確かにほとんど力を入れなくても、バッサリと稲が根元から刈り取れた。
「さすがセレーネ様ですわ!」
「ルイーザさんの教え方が上手なのですわ」
コツを掴んだ僕は、次々と稲を刈り取っていく。
そうこうしていると、30分もしないうちに全ての稲が刈り取れた。
刈り取った稲は、あらかじめルイーザが組んでいた稲架掛けに次々と架けられていく。
それらの作業を終えた頃には、うっすらと額に汗がにじんでいた。
「ふぅ……疲れた……」
「シュキちゃん、大丈夫?」
ぜぇぜぇと息を吐くシュキの背をルーナがさすっている。
どうやらシュキはあまり体力がある方ではないらしい。
「少し休憩しましょう。その間に、フィーさん、手伝っていただけますか?」
「はい」
病弱という設定ゆえに、稲刈りには参加していなかったフィーが、自分の出番とばかりに立ち上がる。
やることは稲の乾燥だ。
本来なら1週間ほどをかけて日干しする稲であるが、フィーの魔法で風を起こすことで、たちまちに乾燥させることができる。
均一な温風を送り続けること15分ほど、稲の水分が十分に抜けたと思えるタイミングで、次は脱穀作業へと移る。
ルイーザが実家から持ってきていた簡易式の千歯扱きのような道具で、乾燥させた稲の穂先から籾を落としていく。
「凄い!! 籾だけがちゃんと落ちてる!!」
「こんな道具を使っているのは私の領くらいでしょうが、なかなか便利でしょう」
うん、実際日本でもこんな道具が生まれてきたのは近代以降だったはずだし、こういった専門的な農具については、アインホルン領はなかなか進んでいるように思える。
その後も、時に四苦八苦しながら、籾摺りや精米などの作業を行っているうちに、いつしか陽が傾き始めていた。
「ふぅ、なんとか明るいうちに作業を終えられましたわね」
そう語るルイーザが支える籠の中には、精米を終えたばかりの真っ白い米の粒がびっしりと詰まっている。
とはいえ、量としては1俵の半分もないくらいだろうか。
それでも、こうして収穫をやり終えた僕らの胸には、確かな達成感があった。
「ふぅふぅ……本当に疲れたわ……」
「よくがんばったよ。シュキちゃん。ありがと!」
「さあ、では、さっそくこの新米を炊くとしましょう!!」
そうして、お釜を用意するルイーザ。
あとは「はじめちょろちょろ、中ぱっぱ、赤子泣いてもふた取るな」だ。
ルイーザの指示で、フィーが風魔法で空気を送り、火加減も見事に調整していく。
「さあ、じゃあその間に、私は飲み物でも……」
「お嬢様は休んでいてください。私が用意しますので」
と、僕が立ち上がる前に、アニエスがそそくさとお茶の用意に立ち上がる。
同時に、ルーナも立ち上がった。
「私も、寮から特製ソースを持ってきます!! また、焼きおにぎりを食べたいので!!」
「わかりましたわ」
そうして、ルーナも去って行き、残ったのは……。
ちらりと横を見る。
すると、こちらを見ていたらしいシュキと目が合った。
「あっ」
「あっ……」
お互いに見つめ合う形になった僕とシュキ。
そのままの状態で、僕らはしばらく固まっていたのだった。
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