129.お兄ちゃん、演劇部にお邪魔する
さて、その日の夕方頃、アミールに許可を取った僕とルイーザは、2人で講堂へと赴いていた。
「す、凄い熱気ですわね……」
講堂の正面入り口を前に、ルイーザが思わずそんな風に口にする。
扉の向こうからは、「はぁああ!!」とか「とりゃああ!!」と言った叫び声が響き渡っている。
えっと、演劇の練習をしてるんだよな……。
僕とルイーザは顔を見合わせると、扉を少しだけ開けて中を覗き見た。
舞台の中央には2人の人物が対峙している。
1人はルーナ。そして、もう1人は銀の仮面をつけた学生服の男──暁の騎士だ。
どうやら、彼も演者として、この舞台に出るようだ。
内容的には、殺陣を中心としたアクション演劇といったもののようだ。
こちらのミュージカルテイストの舞台とは違って、激しくも重厚な雰囲気が漂っている。
練習だろうに、まるで本当に戦っているかのような緊張感だ。
お互いに剣を構えた2人は、じりじりと距離を詰めると、その切っ先を──
「何をしてるんですか?」
「あっ……」
夢中になっているうちに、誰かが僕の背中から声をかけた。
振り返ると、そこにいたのは小柄な少女──この演劇部の部長を務めているあのシュキという名の少女だった。
「はぁ。まったく、こんなに堂々と敵情視察にやってくるなんて」
「ち、違うんですの。私達は、少しルーナちゃんに用がありまして……」
「まあ、いいですよ。別に見られてどうなるものでもありませんし」
怒るかと思いきや、シュキは淡々とした調子で扉を開く。
僕とルイーザは再び顔を見合わせると、彼女の背についていった。
講堂の中に入ると、緊張感がより一層伝わって来る。
"力"の試験で華麗な剣技を見せたルーナとその師匠である暁の騎士。
実際の戦いを経験している二人の剣戟は、演劇とは思えないほどに張り詰めた空気を放っていた。
集中している様子の二人は、僕らが入ってきたことにも気づいていない。
そのままの流れで再び作り物の剣を振り上げ、お互いに飛び掛かろうとしたその時、シュキがパンパンと手を打ち鳴らした。
「はい、そこまで!!」
「あっ……」
集中力が途切れたらしいルーナが、先ほどまでとは打って変わって、いつもののほほんとした表情を見せる。
「シュキちゃん!」
「ルーナ、また魅せ方の意識を忘れていたわよ。刀身は立てる、顔の前には持ってこない」
「わわっ、ごめん。つい忘れちゃって……って、セレーネ様!?」
と、そこで、ルーナがようやく僕の姿に気づいた。
「あれ、なんで、こんなところに……?」
「ちょっとルーナ。私もいましてよ」
「あっ、ルイーザちゃんも」
「先ほどからこそこそと講堂の様子を覗いてたの。ルーナに話があるんですって」
シュキが何の感情も籠っていない声でそう伝えると、ルーナは作り物の剣を鞘にしまってこちらへと降りてきた。
「なんですか、セレーネ様?」
「実は、そろそろ稲の収穫をしたいと思いまして」
「ああっ! いよいよなんですね!」
どうやらルーナも楽しみにしていたようだ。
最初におにぎりを食べた時から、ルーナもすっかりお米の虜だもんな。
新米を味わってみたい気持ちは、どうやら僕と同じなようだ。
「明日は学校もお休みですし、稲刈りをしたいと思っているんですの」
「明日ですね!! あ、でも……」
ルーナがちらっとシュキの方を伺う。
「別に構わないわよ。明日は講堂を使える日でもないし。ちょうどよい機会だし、休息日にするのもいいわね」
「わーい!! OKです!!」
シュキから許可をもらったルーナがこちらへとピースサインを作る。
しかし、えらくすんなり許可したな。
気になって、僕はつい彼女に問いかけてしまう。
「あの本当に宜しいのですか……?」
「別に。ちょうどそろそろ休養も必要かと思っていたので」
「それなら宜しいんですが……」
とは言いつつ、なんとなく後ろめたい気持ちになっていると、ルーナがひょこひょこと移動すると、シュキの手を取った。
「えっ、ルーナ?」
「ねぇ、シュキちゃんも一緒に稲刈りしようよ」
「はい?」
何を言っているのかわからない、と言ったようにシュキが目を丸くする。
「だって、休息日にしても、一人でずっと舞台の事しちゃうでしょ」
「そ、それは……」
どうやら図星だったようで、シュキが目を逸らす。
「シュキちゃんだって、たまには違う事しないと気が滅入っちゃうよ。ルイーザちゃん、いいよね?」
「私は別に構いませんわ」
ルイーザに確認を取ったルーナは、屈託なく微笑みながら、シュキへと迫る。
「だから、一緒に行こ!! シュキちゃん!」
「……はぁ。まあ、ルーナにはいつも私のお願いを聞いてもらってばかりだからね。いいわ。手伝う」
「やったー!」
こうして、なぜか演劇部部長であるシュキも稲刈りに加わることになったのだった。
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