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127.お兄ちゃん、再び砂漠の王子に迫られる

「──って、できてんじゃねぇか」

「ふぇっ?」


 はっ、と我に返る僕。


「あ、え、あれ……」

「最初こそあれだったが、なかなかどうして良い演技だったぜ」

「そ、そうですか……?」


 いや、僕今演技してたんだよな……?

 なんというか、アミールの熱演に引きずられたというか、いつの間にか本当に自分がアリアであるかのように錯覚さえしていた。

 こんな感覚はこれまでで初めてだった。


「アミール様にリードされたようでしたわ」

「まあ、俺は演技もちょっとしたもんだからな」


 フンと胸を張るアミール。

 そんな姿は、さっきまでシアン王子を演じていた時とは、まるで別人のようだ。


「とはいえ、エリアスのやつには顔紅くしてやがったのに……」

「何か言いまして?」

「何でもねぇよ」


 あれ、なんでちょっと不機嫌なんだろう。

 褒めが足りなかっただろうか。


「実際素晴らしい演技でしたわ。アミール様も舞台にお立ちになればいいのに」

「今回目立たせたいのはあくまでお嬢様だからな。俺が本気出したら、必要以上に目立っちまうだろ」


 自意識過剰なんてことはまったくなく、実際、華のある容姿のアミールが今のレベルの演技を披露すれば、観客はそちらに引き込まれること受け合いだろう。


「舞台ってのはバランスが大事だ。何を魅せたいのか考えた時、俺が出たら邪魔になると思ったんだよ」

「アミール様は、本当に演劇の事を真剣に考えていらっしゃるのですね」


 実家を訪れることになった時も思ったが、芸事に関する彼の姿勢は、普段とは違ってとても真摯に思える。


「好きな事だからな。ましてや、自分にとって最高の演者と一緒に舞台づくりができるんだ。全力を尽くすのは当たり前だろ」

「ふふっ、そういうところ、格好良いと思いますわ」


 状況に振り回されてばかりの自分にとって、一つの事にただただ純粋に打ち込んでいるアミールの姿は少し眩しかった。

 尊敬の念を持って見つめていたら、なぜか彼はそっぽを向いた。


「アミール様?」

「何でもねぇよ。ったく、こいつ自分は攻められると弱いくせしやがって……」


 ちょっと顔が赤い気がするけど、体調でも崩したんだろうか。


「やられっぱなしは性に合わねぇ」

「えっ……?」


 突然、アミールが熱っぽい視線を僕へと向けた。

 ドキリと心臓が跳ねる。

 この瞳は見たことがある。

 ジ・オルレーンの海沿いのベンチで、二人っきりになった時に彼が見せた姿。

 何の警戒心も持っていなかったが、考えてみれば、今も僕らは二人っきりだ。 

 アミールのやつ、もしかして、また……。


「なぁ、お嬢様。お前は俺の事嫌いか?」

「えっ……」


 それは、シアン王子の台詞。

 普段通りのアミールのままで、彼はそんな風に僕へと突然問いかけた。


「な、なんですの、突然……」

「いいから答えてくれ。お前は、俺の事、嫌いか?」

「そんなわけないですわ。私は……」


 そのまま台詞と同じように返そうとして口ごもる。

 アリアはシアンのその問いに、"大好き"と答えた。

 それは、異性としての好きではなく、人として、友人としての好きだ。

 でも、それがわかっていても、僕はアリアと同じように、アミールに好きと答えることができなかった。

 それどころか、真正面から僕を見据えるアミールに、視線を合わせることすらできない。

 ふと、アミールの手が僕の顎へと触れた。

 強引に彼の方へと顔を向けさせられた僕は、その熱に浮かされたような瞳を真っすぐに見つめてしまう。

 その瞳は、あまりにも甘く、まるで蕩けるようで……。


「俺は、お前が好きだ」


 あまりにもストレートな感情表現。

 その言葉を聞いた瞬間、僕の心臓がビクリと跳ねた。


「お前がどう思っていようと、俺はお前が好きだ」

「そ、それは、演者として、ですわよね?」

「ああ。でも、それ以上に"女として"お前が好きだ」


 今まで考えないようにしていたこと。

 アミールは僕の事が好き。

 でも、それは、僕の歌声に惚れ込んだだけだと思い続けていた。

 いや、そう思い込もうとしていた。

 はっきりと伝えられた事で、もうそうやって彼の気持ちに気づかないふりを続けることはできない。

 あの海辺でのひとときと同じだ。

 彼の唇がゆっくりと近づいてくる。

 身体が震える。

 怖い……のだろうか。

 彼は本当の僕を知らない。

 転生者であり、元々は男であったことも知らない。

 でも、彼の瞳は、まるでそんな僕の秘密さえも暴くように、まっすぐに僕の瞳を見据えている。

 魔力でも放っているかのように、僕は一切身体を動かすこともできず、彼にされるがままにその唇を受け入れようとしていた。

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