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125.お兄ちゃん、理想の王子に言葉を失う

「エ、エ、エ、エリアス様……!?」

「はい」


 ニッコリと微笑むエリアス。

 普段から女性を骨抜きにしてしまうような美しすぎる笑顔を向けてくる彼ではあるが、本番用に衣装を身に纏った今のそれは、あまりにも破壊力がありすぎた。

 いや、なんだろう……王子様過ぎる。

 実際に彼は王子様なわけなのだが、こうあまりに理想的すぎて、現実感がないというか……。

 チープな表現だが、物語からそのまま飛び出してきた、と言っても信じてしまいそうなほどに非の打ち所がない佇まいだ。 


「どうでしょうか、セレーネ様? フィン様に一度着てみて欲しいと言われて、着てはみたのですが」

「えっと、その……と、とてもお似合いです……」

「そうですか。良かった」


 僕のその言葉が嬉しかったのか、無邪気に微笑む彼。

 それを見るにつけ、なんだか頬が熱くなってきた。

 素直に格好良すぎるんだよ、この本物の王子様は……。


「良い感じじゃねぇか。エリアス」

「フィン様が頑張ってくれましたので」


 そう。フィンは今回も、裏方として本番で使う衣装の製作に携わってくれている。

 エリアスやアニエスは、多少アクションシーンがあるので、本番で動きに支障がないか確認するために、早めに衣装を仕上げてくれているようだ。

 いや、それにしても相変わらず、その人に合わせた衣装を作るのが上手いなぁ、フィンは。


「よし、エリアスも来たことだし、次のシーンの稽古と行こう」


 パンパンと手を叩いて指示を出すと、裏方を含めた全員が次のシーンの配置へとつく。

 それは、物語中盤のラストの場面。

 エリアス演じるシアン王子とアリアの別れのシーンだ。

 天真爛漫なアリアに少しずつ惹かれていくシアン。

 そんなアリアの姿に、王子として肩ひじを張って生きてきたシアンは、自分をもっと表現しても良いんだと気づいていく。

 最終的に、政略結婚の相手に絶縁状を叩きつけた後、彼はアリアの元へとやってくるのだ。

 王子はアリアの事が好きになっており、彼女に告白しようとするのだが、人の姿を借りているだけで、本来は妖精であるアリアには恋愛感情がない。

 結局王子の想いは伝わることはなく、アリアは宮仕えを終え、お城を去って行く……という場面。

 去り際にアリアは、自分の胸に芽生えた不思議な感情に気づくような描写もあり、演技を指導するアミールにとっても、かなりこだわりのある部分なようだ。

 正直、僕はこのシーンが苦手だった。

 なぜかって、そりゃ……。


「アリア、君は僕の事が嫌いかい?」


 目の前で、胸に手を当て、真剣な表情を僕へと向けるエリアス……じゃなくて、シアン王子。

 余りに熱の籠もったその演技、その表情に、僕はいつも気圧されてしまうのだ。

 演劇にはついては門外漢だと言っていたエリアスだが、このシーンだけは妙に感情が籠っているというか……。

 その上、本番で使う衣装を身に纏った今の彼の姿は、あまりにもキラキラしていて、普段よりさらにパワーアップしている。


「え、えっと、その……」


 次の台詞が完全に飛んでしまった僕は思わず口ごもる。


「はい、ストップ、ストーップ! ……何やってんだよ、お嬢様」

「だ、だって……」


 こんな理想の王子然としたイケメンに、迫真の演技を見せられてるんだぞ。

 心臓だって、多少はバクつくというものだ。

 僕みたいに、真正面からエリアスを見てないから、そういうことが言えるのだ。

 まったく、こっちには強制力だってあるというのに……。


「なんだよ。その不機嫌そうな顔は」

「べ、別に、何でもありません」


 心の中でアミールに舌を出しつつも、僕は、はぁ、と息を吐く。


「どこかおかしかったでしょうか。僕の演技」

「い、いえ、違います。むしろあまりに真に迫った演技で、圧倒されてしまって」


 そう釈明すると、彼はわずかに視線を斜め下へと向けた。


「……相手が貴女ですから、つい」

「えっ、今何かおっしゃいました……?」

「はいはい! おしゃべりは稽古が終わった後だ。もっかい最初から行くぞ!」


 仕切り直しとなり、再び僕は舞台の中央へと移動する。

 そうして、また、シアン王子に言い寄られる場面に突入するのだが……。


「アリア!!」


 強く名前を呼ぶシアン王子。

 振り向いた彼は、胸が痛くなるほどに切実な表情を浮かべている。

 もうなんでそんなリアルな表情ができるんだよ!?

 や、やっぱ無理ぃ……!!


「おい、お嬢様!?」


 気づくと、頭に血が上った僕は床へとへたり込んでいた。


「だ、大丈夫ですか!? セレーネ様!!」

「ら、らいじょうぶ……れすわ……」


 ああ、ダメだ。

 呂律が回らない。


「演技でこれとか、思った以上に初心だったな、このお嬢様」


 嘆息しつつ頭を押さえたアミールは、最後にぼそりとこう言った。


「こりゃ、荒療治が必要なようだ」

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