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120.お兄ちゃん、揉め事に巻き込まれる

 さて、広大な学園の敷地内。

 その中でも特に目立つ建物がある。

 それは湖のちょうど北側に当たり、学園の最奥に位置する聖塔だ。

 ルカード様が聖女候補である僕やルーナに試験内容を伝えるために使われているこの建物は、儀式的な行事で用いられるためのものであり、普段は一般生徒達には開放されていない。

 では、一般生徒達が集まる機会にはどこに集まるかというと、それがアミールがいるという大講堂だった。

 聖塔と男子校舎のちょうど中間あたりにあるこの大講堂は、外壁と同様、元々砦として利用されていた頃の名残を残す建物であり、堅牢そうな石造りの小城を改装したような作りになっている。

 古めかしくはあるが、かなり立派な建物で、学園に入学した際にパーティーが行われていたのもこの場所である。

 そんな大講堂では学内での様々な用途に対応するため、1階は前方のステージに向けて長椅子が並ぶフロアになっており、ここだけを見れば、一般的な学校の講堂のイメージにも通じるかもしれない。


「なんだか賑わっているようですわね」

「そうですわね……でも」


 大講堂の入り口に近づくにつれ、直接様子が見えずとも、その喧騒が伝わってくる。

 しかし、どこか騒がしさの質が違うように感じる。

 学内劇団ということなので、熱のこもった稽古の声が聞こえてくるかと思っていたのだが、聞こえてくるのは、何やら複数の人物が言い争うような声だ。

 そういうシーンの練習でもしているのだろうか。

 不穏なものを感じた僕達は、とりあえず正面入り口の隅から、講堂内の様子をちらりと伺ってみた。


「あっ……」


 アミールがいた。

 ステージの上に立つ、制服姿のアミール。

 その後ろには、学内劇団のメンバーと思しき二十名を越えるくらいのメンバーが控えている。

 そこまでは良かった。

 そんなアミールたちの前に、まるで敵対するように同じくらいの人数の集団がいた。

 皆、学生服を着ていることから、この学校の生徒であることは間違いない。

 どうやら、アミールを筆頭とした学内劇団とこの謎の集団は、言い争いをしているようだった。


「何度も言わせるなよ。俺達はここの使用許可をちゃんともらってる」

「それはどこかの事情を知らない先生が、勝手に降ろした許可でしょう!!」


 明らかに不機嫌そうなアミール。

 それに真っ向から言葉を返すのは、赤い髪をショートカットにした小柄な少女だった。

 身長はルーナと同じか、それより低いかもしれない。

 しかし、小さな体格とは裏腹に、腕を組んで仁王立ちをするその姿には、妙な迫力がある。


「元々、この大講堂は私達"アルビオン学園演劇部"の活動場所です。一方的にそちらの使用日を変更されても、承諾できるものではありません」

「それはこっちだって同じだっつうの。学校の運営側から許可もらったのに、そっちの言い分で、はいそうですか、と引き下がれるかよ」


 にらみ合う二人。

 威圧し合う二つの集団。

 うーむ、会話の内容でなんとなくだが状況が見えてきた。

 つまるところ、元々"アルビオン学園演劇部"が活動場所として使用していたこの講堂に、"アミール劇団(仮)"が使用申請を出し、なぜか承諾されてしまったことで、講堂使用のブッキングが起きてしまったということか。

 2学期からということだから、もしかしたら、たびたび今回のようなことがあったのかもしれない。

 何にせよ、とても声をかけられる雰囲気じゃないなぁ。

 僕は、どうしようか、とエリアス、ルイーザ、ルーナと顔を見合わせた。

 …………えっ?


「ルーナちゃん……!?」


 僕らのすぐ横に、ニコニコ顔のルーナが立っていた。

 いや、あまりにナチュラルに一緒にいたので、一瞬気づかなかったぞ……。


「セレーネ様に、ルイーザちゃん、エリアス様! こんな場所でどうしたんですか?」

「え、ええ、アミール様に用があったのですが、少し講堂の様子が……」

「セレーネ!!」

「あっ……」


 今度は講堂の方からアミールの声が響く。

 しまった。

 ルーナに驚いた拍子に、がっつり向こう側に身体を晒してしまっていたようだ。

 アミールはまるで鷹のような素早さでこちらまで駆けてくると、僕の手を取った。


「えっ、ちょっとアミール様!?」

「いいから、ちょっと来い」

「あっ、セレーネ様!!」


 半ば強引に手を引かれた僕は、あれよあれよと言う間に、ステージの上へと連れて来られた。

 そして、なぜかあの赤髪の少女と対峙させられる。

 近くで見るとより小さいが、なかなかの威圧感だ。

 そんな少女は、僕の姿を見ると、面食らったような表情を浮かべていた。


「セレーネ・ファンネル……」

「お前も知っての通りの聖女候補様だ。俺は、"今度のこいつの聖女試験に協力することにした"」

「えっ!?」


 いきなり聞こうと思っていたことを一方的に告げられた僕は、思わず驚きの声を発したのだった。

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