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119.お兄ちゃん、碧の王子と鉢合わせする

 度々訪れる学園の中央に位置する湖を越え、僕とルイーザは男子生徒達のいる西側の区域へと足を踏み入れた。

 この学園では、女子と男子は別々の学舎で授業を受けてはいるものの、それはこの世界においては必要となる教養が男子と女子で異なる場合が多いということが理由であって、取り立てて男女の交流そのものが禁止されているわけではない。

 敷地内も男女ともに自由に行き来ができ、先日ルカード様とも行った湖畔のエリアなんかには、放課後はカップルで溢れかえっている。

 とはいえ、さすがにお互いの学舎そのものに異性が立ち入ることは稀で、放課後で人の少なくなったタイミングとはいえ、さすがに注目を集めてしまいそうだった。

 とりあえず、目立たないところからアミールを探そうと、僕とルイーザは近くの木陰に隠れて、男子校舎の入り口あたりを眺めていた。

 こちらの授業が終わってからすぐにやってきたおかげか、ちょうど下校ラッシュの時間に間に合ったようで、多くの男子生徒達が談笑しながら、校舎から次々と出てきている。


「うーん、なかなか出てきませんわね。もう帰ってしまわれたかしら」

「いったいどなたに会いに来たのですか?」

「アミール様ですわ」

「えっ?」


 同じく木陰に隠れながら問い掛けてきたルイーザが、両の頬に手を当てる。


「え、え、まさか。セレーネ様の本命は……」

「あー、そういうのじゃありませんから!」


 まったく、ルイーザもやはり年頃の女の子なだけあって、他の女子達同様、恋愛脳だなぁ。

 彼女の場合、自分自身の恋愛にはさして興味なさそうなところがアレだけど。

 だいたい元男の僕が、イケメンとはいえ、野郎と恋愛なんてするわけが……。

 そして、頭によぎるこれまでのあらすじ。

 フィンに壁ドンされたり。

 レオンハルトに半裸で抱きしめられたり。

 アミールに唇奪われそうになったり。

 エリアスに鞍上で後ろから優しく手を添えられたり。

 …………う、うん。するわけ……ないよな。


「セレーネ様、お顔が赤いですわ。やっぱり……」

「違います!! 違いますから!!」


 あーもう、いい加減にしろ、強制力!!


「セレーネ様?」

「あっ」


 勢い余って木陰から身を乗り出した瞬間、目の前にいたのは痩身痩躯の青髪美少年、エリアス様だった。

 どうやら彼もちょうど下校中だったようだ。


「ごきげんよう。セレーネ様」

「ご、ごきげんよう。エリアス様」


 笑顔を共に放たれた爽やかな挨拶に、なんとか言葉を返す僕。

 直前に本意ではない回想をしてしまったせいか、なんだか目の前で動いているエリアス様と目を合わせられない。


「しかし、驚きました。こんな場所でセレーネ様をお見かけするなんて。何かご用事が?」

「あ、はい。アミール様に、少しお伺いしたいことがありまして」

「ああ、アミール様ですか……」


 ん? エリアス様のトーンが若干下がった気がするけど、気のせいだろうか。


「てっきり僕に会いに来てくれたのかと……」

「何か言いまして?」

「いえ、何でもありません」


 と、そこで、エリアスがタイミングを見計らいつつもひょっこりと出てきたルイーザに気づく。

 お互いに貴族風の挨拶を交わすと、エリアス様はにっこりと微笑んだ。


「なるほど、"お二人"でいらしていたのですね」

「あ、はい。ルイーザさんには付き添っていただいただけですが」


 なぜだか、少し満足そうなエリアス。

 うん、最近の男子の反応はよくわからん。


「ところで、アミール様でしたね。彼でしたら、学校が終わってすぐにいつもの場所に向かいましたよ」

「いつもの場所?」

「ええ、2学期から、本格的に講堂のホールを使うことができるようになったらしく。今日も、趣味の方に打ち込んでいるようです」

「なるほど。そうなんですの」


 どうやら、アミールは今日も今日とて、学内劇団としての活動に勤しんでいるらしい。

 そう言えば、1学期の頃は外壁の上で、楽器隊の練習とかさせていたんだった。

 講堂の使用許可が下りたということは、それなりに活動を認められたということなのだろうか。

 少なくとも、以前と比較して、受け入れ体勢は整っていると見て間違いない。

 あとは、ルーナと僕、はたしてどちらを劇団に引き入れようとするかどうか。


「教えていただいてありがとうございました。そちらに伺ってみることにしますわ」

「あ、でしたら、僕もご一緒させて下さい」

「えっ?」


 エリアス様が? なぜ?


「僕もアミール様の活動には、以前から少々興味がありまして」

「そうなんですか?」


 エリアス様と言えば、動物と本が好きなイメージばかりだったのだが、演劇にも興味があったのか。少し意外だな。


「講堂には、こちらのルートから行くと早いのですよ。ささ、お二人もご一緒に」

「え、ええ」


 なんだか有無を言わさぬ勢いで、一緒に行く感じになってしまったが……。

 まあ、元よりルイーザにも付いてきてもらっているわけだし、一人増えたところで別段支障もないか。

 何にせよ。アミールがどんなふうに動くか。

 それを確認するためにも、早急に講堂へと立ち寄らなければ。

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