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118.お兄ちゃん、"藝"の試験に臨む

「──であるからして、当時は同じ言葉でも、現在使われている意味とはまったく異なる意味で用いられていたものも多く、この部分にも幾通りもの解釈が存在しており──」


 大講義室の中で、復帰したレリック先生の講釈をBGMに、僕は物思いにふけっていた。

 ルカード様とのあれこれから早5日。

 あの後、他の教師からレリック先生の病状について聞いた僕は、彼がひどい腰痛で自宅療養することになったことを知った。

 半ば強引に彼の自宅を聞き出した僕は、家に押しかけ、白の魔力を使って、無理やり彼を全快させてしまったというわけだ。

 おかげで、レリック先生はすぐに復帰することになり、ルカード様が代替を務める必要もなくなった。

 これで、少しはルカード様の仕事量も減ることだろう。

 その件については、めでたしめでたしといったところなのだが、いよいよ昨日、僕とルーナは呼び出しを受けていた。

 当然、次の聖女試験についてのことだ。

 第3の課題、"(げい)"の試験。

 その内容は、これまでの試験と同様、妹から聞いていた通りのものだった。

 およそ2カ月の準備期間を経て、学園の講堂ステージを使った舞台を披露する。

 舞台上で披露できるものならば、演劇や歌など何でも構わないらしい。

 極論を言えば、コントや漫才なんかでもいけるようだが、さすがに乙女ゲームでそれはないか。

 勝敗の判定は、碧の国から有名な劇作家の先生を呼び、その人に一任するということだった。

 とにかく、これまででもっとも大がかりな試験であり、自分一人ではなく、チームとして取り組まなければならない点が非常に難しい課題だ。


「問題はそのチームなんだよなぁ……」


 ゲームでのセレーネは、実家の資金力に物を言わし、自分の国で活躍する劇団員たちを大量に雇い、豪華なお芝居を作り上げていたらしい。

 一方、ヒロインであるルーナは、アミールと交友を結び、彼の作り上げた学内劇団の力を借りて、それに対抗する。

 そんなわかりやすい構図だったはずなのだが、現状、その前提はまったくもって覆されている。

 というのも、アミールがルーナにあまり関心を持っていないのだ。

 それだけなら、まだいいが、むしろ僕の歌声の方に、なぜか彼は執着しており、以前から度々僕を学内劇団に迎え入れる旨を伝えられていた。

 まったくなんでこんなことになったのか……。

 そこまで考えた時、ふと、あのジ・オルレーンでの一幕を思い出す。

 月下でこちらを見つめる彼の瞳は、どこか情熱的で……って、変なこと思い出してる場合じゃない!!

 問題は、このままアミールがもし僕の方についてしまえば、ルーナにははたして後ろ盾があるのか、というところだ。

 今回ばかりは、さすがにあの暁の騎士が手を貸したとしても、一人ではどうしようもないだろうし。

 とにもかくにも、まずは直接アミールがどんな風に動くのか、彼の意思を確認してみるほかない。


「──では、これで授業を終わる」


 考え事をしているうちに、授業も終わった。

 男子の方も授業が終わった時間だろうし、一度、アミールの元へ行ってみるのもよいかもしれない。


「セレーネ様、今日も是非ご一緒に……」

「ルイーザさん、申し訳ありません。これから少し所用で、男子学舎に行かねばならなくて」

「まあ、もしかして、エリアス様のところに?」

「えっ?」


 なんでそこでエリアスの名前が出て来る?


「あら、違いましたか? なんだか、最近とても仲がよろしいと噂になっていましたので……」

「あっ」


 そう言えば、"心"の試験でやたら一緒にいたせいか、最近エリアスと僕の仲がなんだか噂されがちなんだよなぁ。

 こちらとしては、一応、レオンハルトの婚約者ということになっているわけだから、冷静に考えれば、そんなわけないはずなんだが……いや、女子って本当にゴシップ好きだよね。

 うーん、一人で男子寮の方に行くとなると、またそういう変な勘繰りをされてしまうだろうか。


「そういうわけではありませんの。少しお話をしたい方が他にいまして」

「そうなんですのね」

「あの……もし、お時間あったら、ルイーザさんもご一緒に来ていただけません? それほど時間は取らせませんので」

「えっ、是非!!」


 なぜかルンルン顔で答えるルイーザ。

 まあ、ルイーザと2人でなら、これ以上変な噂が立つこともないだろう。

 こうして、僕はルイーザを引き連れ、男子学舎へと向かうことになったのだった。

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