116.お兄ちゃん、制服デートをする
湖までやって来た僕とルカード様は2人並んで、いくつもある湖畔のベンチの一つへと座った。
周囲にはポツリポツリと同じようにベンチに腰掛けるカップル達の姿が見える。
僕ら一組くらい加わったところで、特に目立つこともない。
「うん、とっても学生の放課後デートっぽいですわね」
ルカード様の右肩に頭を寄せながら、僕は満足げに鼻息を吐いた。
やはり、こういうのが正しい学生のあり方というものだろう。
学園に来てから、こんな学生カップルの姿をよくよく見ていたしね。
まさに放課後の正しい過ごし方って感じ……あれ、僕、前世の学生時代にこんな経験したことあったっけ?
放課後ゲームしかしてこなかったような……。
若干、過去の自分の在り方にブルーな気分になりつつも僕は切り替えるように目線を上げた。
目の前に広がる湖。
いつもルドルフ先輩が餌をやっているからか、多くの水鳥達が群れを成し、時折羽ばたいている。
ここからだとちょうど湖側が陽の落ちていく方角になるので、少し眩しいが、そのおかげか景色がまるで煌いて見えた。
「景観も申し分ありませんわね……ルカード様?」
さっきから反応がないルカード様の方へと視線を向けると、彼はなぜか瞳を閉じていた。
「どうかされました?」
「ああ、いえ……その……」
僕の問いかけに、ようやく瞳を開けたルカード様は、なんだかひどく真面目な顔で口を開く。
「どうにもその……夢のようで……」
「夢?」
よくわからないが、どことなく満足げなようにも見えるので、とりあえず不快には思っていないようだ。
しかし、夢……夢か。
そもそもが彼の疲れを癒す目的始めたことだったのだが、僕の好奇心のせいで随分趣旨からズレてしまったな。
ここらで方向修正しておくとするか。
僕は、よいしょ、っとルカード様から少しだけ離れると、ポンポンと膝を叩く。
「さあ、ルカード様。本当の夢を見るなら、横になって下さいまし」
「いやしかし、人前でそんな……」
「ここではそう目立ちませんわ」
実際、周りの学生達の中にも、似たような事をしているカップルもいるし、浮いた行為というわけでもない。
銀髪サイドポニーを揺らしながら、僕が周囲を見てみるように首を振ると、ルカード様は一瞬だけ躊躇したものの素直に僕のふとももに頭を預けてくれた。
先ほど教室でやっていたのと同じ事なのだが、格好が学生になったせいか、なんだか違和感が凄い。
「ふふっ、本当のデートみたいですわね」
ま、実際のところ、ルカード様からしてみれば、5つも年下の僕なんて妹みたいなものなんだろうけど。
でも、考えてみれば、実際のゲームではルカード様も攻略対象の一人だったわけだよなぁ。
つまりはルーナの恋愛対象というわけなのだが、二人が並んだ姿を想像しても、やはり兄と妹のようにしか思えなかった。
けれど、今の制服姿で想像してみると、少しはその歳の差感がなくなるようにも感じる。
試験官として特殊な立ち位置にあるルカード様は、攻略対象5人の中でもイベントが少なめで、好感度を上げられる機会というのも序盤はあまりないらしい。
確かに、現状においても、聖女候補と個人同士で会うのは周りの目も合って難しいものな。
ルーナと友人関係まで発展させるにしても、今はまだ、どうしようもない段階だろう。
と、ふと気が付くと、僕の膝に横になったルカード様が、ジッと僕の顔を見つめていた。
「あら、ルカード様。眠れませんか?」
「いえ……」
問い掛けると、おもむろに瞳を閉じたルカード様。
そう言えば、エリアスもいきなり僕の顔を見つめてきたことがあったし、なんだろう、最近の流行りなんだろうか。
しばらく、穏やかな時間が過ぎた。
頬を撫でる風に身を任せるように、僕もルカード様と同じく瞳を閉じる。
ポカポカとした秋の陽光が木々の合間から降り注ぎ、煌めく光が僕らを照らしていく。
ルカード様を癒すためにしたことのはずだったが、僕自身、この何とも言えない心地の良い時間を楽しんでいた。
つい先日まで第2の聖女試験で必死だったものな。
自分自身の疲れも癒すような気持ちで、僕はこのゆったりとしたひとときを堪能していた。
だが、そんな時間も長くは続かない。
木々の隙間から降り注いでいたはずの陽光が、いつしか僕の顔を真正面から照らしつけていた。
目を開く。
いつの間にか陽が随分と落ちていた。
明るい昼の時間は過ぎ去り、もう間もなく夜が訪れる。
気づけばカップルの姿もかなり減って来ていた。
そろそろ皆、寮へと帰る時間なのだ。
「ルカード様、そろそろ……」
声をかけようとした僕は、ルカード様の姿を見て、ハッとした。
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