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115.お兄ちゃん、学生気分を味あわせる

「さあ、ルカード様。今ですわ……!」

「ま、待ってください。セレーネ様……!?」

 

 ルカード様の手を引いて、裏口から校舎外へと出た僕は、そのままあまり目立たない北側の遊歩道までを一息に走り切った。

 いくら容姿をいじったからといって、女子校舎内に男子生徒がいるのは少々マズい。

 だから、誰かに見つからないように、極力人に会いそうにないルートを選んでここまで来たというわけだ。

 途中、少し危ない場面もあったが、こういう時に冴えわたる僕の勘を以て、なんとか女子生徒や他の教師と鉢合わせせずにここまでやって来ることができた。


「ふぅ、ここまで来れば、男女で一緒にいてもツッコまれることはありませんわね」


 実際、授業が終わってから陽が落ちるまでの間は、男子生徒と女子生徒が交流できる貴重な時間だ。

 以前、ルーナと湖の周囲を歩いていた時もたくさんのカップルの姿が見られたように、僕と男子生徒姿のルカード様が歩いていてもそこまで目立つことはないだろう。

 その上、ルカード様に倣って、僕の方も髪色を普段の牡丹色から銀髪へと変えてみた。

 ルカード様に教えてもらって、魔力による髪色の操作をやってみたのだが、思いのほか上手くいったようだ。

 考えてみれば、髪に魔力を蓄積しているミアも魔力の濃度によって毛先に向かってグラデーションのように髪色が変わっていたし、思った以上に魔力で髪の色を変えるというのは簡単なことのようだった。

 銀髪と言えば、アークヴォルトオンラインのナビゲーションキャラクターであるレミリアたんと同じ髪色だ。

 だからレミリアたんと同じく、髪型もサイドポニーにしてみた。

 同じ声優さんが元キャラを演じていた関係か、声もレミリアたんとほぼほぼ同じであるセレーネ。

 推しキャラに近づけたような気がして、そういう意味でもちょっとテンションが上がり気味だった。


「これだけお互い容姿を変えていますし、たとえ見つかったとしても、私とルカード様だとは気づかないでしょう」

「そうだと良いのですが」


 半分は困ったような、それでいて、どこか少し楽しんでいる風な笑顔でルカード様が言った。


「とりあえず、少し歩きましょうか。ルカード様」

「はい、セレーネ様」


 そうして、制服姿の2人は、少しずつ落ちてきた陽の下で、湖方向に向かって歩き出す。

 季節は秋。紅葉には少し早いが、気候が良いせいか、周囲の木々もどこか煌いて見える。

 高くどこまでも澄んだような青空の元、僕らは風を感じるようにして歩を進めた。


「……不思議なものですね」


 ポツリと、隣を歩くルカード様がつぶやいた。


「ただ普段と着ている服が違うだけなのに、なぜだか見ている景色が全く異なるように感じています」

「ふふっ、少しは学生っぽいことができていますかね?」

「ええ、こうやってセレーネ様と歩いていると、学友と一緒に下校しているような気分です」


 ほんのわずかだけど、興奮したようなルカード様の声。

 ふと思いついた僕の好奇心から始めた事だったけど、なんだかんだ本当にルカード様は学生というものに憧れがあったようだ。

 ゲームの設定をそれほど掘り下げて妹から聞かされているわけではないが、ルカード様が他の攻略対象達よりも、苦労人であることは想像に難くない。

 子どもの頃は孤児だったというし、何の後ろ盾もないままに、ひたすら誰かに必要とされるために頑張ってきたのだろう。

 そんな中で、僕らのようなのほほんとした学生生活なんてものは夢のまた夢だったに違いない。

 おそらく同世代の友達なんかもあまりいないのではないだろうか。

 彼の身の上を思うと、この機会に少しでも学生気分を味あわせてあげたい気持ちになってくる。

 しかし、学生らしいと言っても、何をしたら良いだろうか……。

 悩んでいると、いつの間にか度々訪れる湖へと辿り着いた。

 周囲を見回す。

 湖畔のベンチには、今日も多くのカップルたちの姿が見える。

 ああ、なるほど。

 思いついた瞬間、僕はルカード様の腕に抱き着いていた。


「セ、セレーネ様……!?」


 意外にも動揺したルカード様の声。

 それを聞いて、僕の中の悪戯心もムクムクと盛り上がって来る。


「この機会ですし、もっと学生らしいことをしてみましょう」

「学生らしいって……まさか……」


 周囲を見回すルカード様。

 真面目な彼も、さすがにその意味に気づいたらしい。


「甘酸っぱい青春というやつですわ」


 そう言って僕は、戸惑い気味の彼に、にっこりと笑いかけたのだった。

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