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114.お兄ちゃん、制服を着せる

「ほわぁ……」


 思わず変な声が出た。

 それくらい目の前に立つ、制服姿の美男子の姿は神々しかった。

 長く後ろで結った銀髪を揺らす、眼鏡をかけたインテリ系の男子生徒。

 どこぞの生徒会長様だと言われれば、そのまま信じてしまいそうなほどだ。


「ルカード様、よくお似合いです……!!」

「セ、セレーネ様……」


 手放しに褒めると、普段の僧服とはまったく違う印象となったルカード様は、困ったような表情で頬を掻いた。


「まさか、こんな格好をさせられるとは思ってもみませんでした……」


 制服姿の自分を不思議そうに眺めるルカード様。


「ちょうど、弟から制服を預かっていたもので」


 いやぁ、それにしても、制服姿が驚くほど似合っている。

 なんというかコスプレ感がないというか、マジモンの学生にしか見えない。

 フィンのものなので、若干サイズに寸足らず感があることは否めないものの、それを差し引けば、上級生の男子と言われても疑う者は誰もいないだろう。

 元々、年上とはいえ、アニエスとほとんど変わらない年齢だし、まだまだルカード様も若い。


「しかし、いきなりそれを着させられるとは……」

「だって、ルカード様が、なんだか羨ましそうにしているように思いましたので」

「羨ましそう、でしたかね……?」


 嘘です。

 8割くらいは僕の好奇心から取った行動です。

 いや、でも、僕の好奇心グッジョブと言えるくらいには、本当によく似合ってる。


「でも、確かに……。正直、少しワクワクしている自分がいて、驚いています」


 そう言いながら、どこかまんざらでもない表情を浮かべるルカード様。

 うんうん、なんだかんだ、本人も結構ノリ気のようだ。


「ルカード様、そこに座って下さいませ」


 僕は講義室の一番前の席にルカード様を座らせる。

 そして、自分自身は、教卓の前へと立った。


「ごほん。では、この問題を……ルカード君」

「え? あ、はい……!」


 先生になりきって指名すると、ルカード様は律儀にびしりと立ち上がった。

 その姿が、どこか残念系委員長っぽさがあって、思わず笑いがこみ上げてくる。


「ふふふっ……!!」

「な、何か面白かったですか……?」

「あ、いえ、ごめんなさい……でも、ふふっ」


 あかん。これ、思いのほか楽しい。

 僕は、今度はルカード様のすぐ横へと腰を下ろす。

 そして、にっこりと微笑んだ。


「おはようございます。ルカード君」

「えっ!? あっ、えーと……お、おはようございます。セ、セレーネ……さん」


 勝手に始めた同級生ロールプレイに気づいてくれたルカード様は、躊躇いながらも乗ってくれた。


「ルカード君、宿題はやってきましたか?」

「え、あ、はい。きちんとやってきました」

「さすがルカード君ですわ。私、わからないところがあって、少し教えていただけませんこと」

「え!? あ、はい、私にわかる範囲であれば」

「まあ、ありがとうございます!」


 役になり切って、心からの笑顔でそう言ってあげると、ルカード様の頬がなぜだか少し紅く染まった。


「あら、どうかしました。ルカード様?」

「い、いえ、なんでもありません……!」

「そうですか?」


 いや、それにしても、こうやって真横に座って、学生同士のやりとりを再現してみても、やはり見た目の面では凄く自然だ。

 実際は、この学園内では男子生徒と女子生徒が一緒に授業を受けることはほとんどないのだが、こういったやり取りもなんだか普通にできてしまう。

 しかし、こんなイケメン眼鏡男子がいたら、女の子達から絶対に放っておかれないだろうな。


「あ、あの、セレーネ様。私の顔に何か……」

「あ、いえ、ほんっと~によくお似合いだと思って。これならたとえ講義室の外を歩いていても、違和感ありませんもの」

「いや、さすがにそれは……」

「少し印象を変えれば、本当に出歩けるのでは」


 ルカード様の印象と言えば、眼鏡イケメンだ。

 だったら、眼鏡の部分をなくしてしまえば、あるいは。


「ルカード様、少し眼鏡を外してみていただけますか?」 

「は、はい」


 僕の言葉をルカード様は素直に聞いて、眼鏡を外した。

 よくマンガなんかでは、眼鏡を外すと美少女、みたいな話があったりするが、元々容姿が良い人は、やはりかけていてもかけていなくてもイケメンだ。

 でも、印象のウエイトの多くを絞めていた眼鏡がなくなったことで、別人とは言わないまでも、かなり違う印象になったのは間違いない。

 元々笑顔の似合う柔和そうな顔立ちだったが、硬質な眼鏡がなくなったことで、より一層優し気になった。

 あとは、多少の若返り効果もあったかもしれない。

 眼鏡の印象よりも、滑らかで若々しい肌の質感が伝わるようになったことで、若者しさが増したように思う。


「うんうん、いけそうですわ! あとは、髪型を少し変えたりすれば!」

「髪型はこれ以外したことがないですが、髪色でしたら」


 そう言うと、ルカード様の身体から魔力が放たれた。

 神官だけが持つ翠の魔力。

 その魔力に反応するかのように、ルカード様の銀の髪が、鮮やかな緑色へと染まる。

 一瞬後そこに立っていたのは、長髪を揺らす見知らぬ男子だった。

 いや、本当に初対面か、というほどに印象が変わっている。

 そもそもルカード様が制服を着ているはずがないという先入観もあって、眼鏡を取り、髪色を変えたルカード様は本当に一男子生徒にしか見えなかった。

 ものすっごい美形ではあるけど。

 ……これなら、本当にちょっとくらい外を出歩いても、大丈夫かもしれない。

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