110.お兄ちゃん、男子制服をゲットする
翌日の事だ。
その日は、担当教員の急病により、午後の授業がお休みとなり、僕達女子生徒は早めに寮へと帰っていた。
思いがけず時間の空いた僕は、一度は寮に帰ったものの再び学舎まで戻ろうとアニエスに一言伝えて寮を出た。
目的は一つ、この機会にルカード様に、聖女や黒の領域について尋ねてみようと思ったのだ。
女子生徒の多くが帰宅したこのタイミングならば、ルカード様と直接話をしても、それほど目立つことはないだろう。
たまたま訪れたこの機会を逃さぬように、僕はそそくさと学園への道を駆けていたのだが……。
「うわっ!?」
「あ、すみません……って、姉様!?」
小走りで女子校舎に向かっていた僕に、横合いから突然ぶつかってきたのは、フィン……いや、フィーだった。
夏休み前以来およそ2カ月ぶりに見る女子制服姿の弟。
うん、やっぱり改めて見ても、女の子にしか見えないわ。
「ちょっとご無沙汰でしたわね。その姿も」
「いや、姉様。そんなのほほんとした顔で落ち着いてる場合じゃないんだ!!」
明らかに焦った様子のフィンは、バッグを両腕で抱えながら、冷や汗をかいている。
「悪いんだけど、姉様の部屋でちょっと着替えを──」
「ああっ、やっぱりフィー様ではないですか!!」
「げっ!?」
と、こちらへとそそくさとやって来たのは、ルイーザだった。
彼女は、フィーの顔を確認するや否や、見るからに嬉しそうな笑みを浮かべた。
ギリギリとルイーザの方へと振り返ったフィーは、まるでロボットのように無理やり笑顔を作る。
「あ、あははは、ご、ご無沙汰してます……」
「本当にお久しぶりですわ!! 夏休みの少し前から、ずっとお会いできていなかったから、心配していましたの!!」
ルイーザがフィーの手を取る。
キラキラとした純粋な視線を向けて来るルイーザに、フィーはもうたじたじだ。
あー、状況がつかめてきたな。
つまるところ、久々に女装癖を押さえられなくなったフィンが女子生徒姿で出かけたところをルイーザに見つかってしまったというわけね。
ルイーザ、架空の存在であるところの"深窓の令嬢フィー"をずっと心配してたもんなぁ。
こうやって、元気な姿のフィーを見たことで、随分安心したんだろう。
「しばらくぶりで積もる話もありますし、よろしかったら、近くの庭園あたりでお話でも!!」
「え、そ、そうですね……」
「セレーネ様も、ご一緒にいかがですか?」
ルイーザの言葉に、フィンが縋るような視線を向けて来る。
でも、僕は満面の笑みでこう答えた。
「いえ、申し訳ありませんが、少し用事がありますので」
「ちょ、姉さ──」
「あら、残念ですわ……。では、セレーネ様の分も、夏休みの思い出をしっかりフィー様にお伝えさせていただきますね」
「ええ、頼みましたわ。ルイーザさん」
にっこりと笑顔を浮かべると、ルイーザはフィーの手を引いて、嬉々として庭園の方へと歩いていった。
引きずられるようにしてルイーザに付いていくフィンが恨みがましい視線を向けてくるが、これも友人に心配をかけた報いというものだ。
素直にルイーザの想い出トークの聞き役に徹してもらうこととしよう。
「さて、僕の方も急がなくちゃな」
時間を取られてしまったが、方便ではなく、実際に僕にはルカード様に会いに行くという用事がある。
そそくさと歩を進めようとしたその時、何かが足に当たって、僕は下を向いた。
「あっ……」
それはバッグだった。
さっきフィンが持っていたものだ。
どうやら今のごたごたでそのまま置いていってしまったらしい。
「もしかして……」
手に取ってみると軽い。
中を確認してみると、予想通り、フィンの着替え──男性制服が入っていた。
「あー、僕の部屋でこれに着替えようとしていたわけね」
しかし、どうしたものだろうか。
すでにルイーザとフィンの姿は庭園の方へと消えている。
わざわざ渡しに行くとなれば、少し手間だな。
それに、もし、ルイーザに興味を示されるとマズいことになる。
「なぜ、男子制服を持っているのですか? とか聞かれたら、言い訳のしようがないもんな……」
ここに置いていくわけにもいかないし、とりあえず僕の方で預かっておくことにするか。
こうして、小脇にバッグを挟むと、僕は再び学園への道を歩き始めたのだった。
「面白かった」や「続きが気になる」等、少しでも感じて下さった方は、広告下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけますと、とても励みになります。




