108.暁の騎士と碧の王子
「随分素敵な格好ですね」
銀の仮面に深紅のマント。腰には騎士剣。
そんな姿の俺を見ながら、エリアスは見透かしたような笑みを浮かべていた。
ああ、間違いない。
こいつは俺の正体に気づいている。
「こんな形で自分の本懐を遂げようとするとは、本当に不器用な方です」
「まさかお前がセレーネに力を貸すとはな」
「僕も、セレーネ様には"特別な感情を抱いていますから"」
こちらの事情を分かっていながらも、ぬけぬけとそんなことを言うエリアス。
まったく、少し前まではもっと穏便で慎ましい奴だと思っていたが……。
人の婚約者に対して好意があると、本人の前で言えるほどの図々しさは、一体いつ身に付いたのか。
いや、わかってる。
俺と同じだ。
こいつもきっと、セレーネと出会って変わったのだ。
おどおどして人とまともに会話もできなかったはずの友人は、そんな昔の姿などおくびにも出さず、俺を真正面から見つめている。
「あなたが表立って動けないうちに、僕も僕なりにやれることはやろうかと」
「それが、あの白馬でのお迎えか? 女子生徒の間で随分噂になっているようだが」
「多少は外堀を埋める効果もあるかと思いまして。何より、今回の試験は、彼女と関わることのできる良い口実になりました」
あくまでも笑顔は絶やさず、そう言うエリアス。
「本気……なんだな?」
「もちろんです」
寸分の遅れもなく出た肯定の言葉。
それは、俺に対する宣戦布告に他ならなかった。
「……一つだけ教えろ。お前はセレーネが聖女になっても構わないのか?」
「いえ。しかし、"その後の事を考えれば"、少なくとも紅の王宮に入ってしまわれるよりは、彼女を手に入れられる可能性がある」
碧の国の叡智などとも呼ばれるこいつのことだ。
夢想なんかではなく、本当にセレーネを手に入れる見通しを持っていると考えていいだろう。
「まるで、俺に対しての嫌がらせだな」
「そういうのはここ2年ほどで得意になりましたので。貴方の事は個人的に尊敬しています。でも、こればかりは譲れない」
強い視線。
仮面越しにそれを受け止めた俺は、苦々しく思いつつも、どこか心が沸き立っていた。
「いいだろう。俺は必ずルーナを聖女にさせる。そして、俺自身の偉大なる王の道を貫く」
力強くそう言い返すと、エリアスは余裕の笑みを浮かべたまま目を細めた。
そうして、かぶりを振ると、歩き出す。
この試験の勝者セレーネ・ファンネルの元へと向かうその背を見つめながら、直接彼女を手助けできるエリアスに、わずかばかりの羨ましさを感じる俺だった。
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